4人は町中を走り回り、とある倉庫の中でベリルを発見した。
見つけるやいきなり、シングが「ベルル」と派手に名前を間違ったが。
人の名前くらい覚えようよ・・・、そのすぐ後ろでが溜息をついていた。
「ベリル!ボクはベリル=ベニトだよっ!」
「あ、ゴメン・・・オレはシング=メテオライトです」
「自己紹介してる場合じゃないっての・・・このお馬鹿!!」
このやりとりが少しイラっときたのだろうか、は軽くシングを蹴飛ばした。
「このバカも俺も、チェンの仲間じゃない、お前のスピリアを少し探らせて欲しいだけなんだ」
そろそろ見慣れてきたのだろうか、ヒスイはシングを無視してベリルに話しかける。
だがベリル本人は「ソーマを取り上げにきたんだろ!」と、聞く耳を持たない。
さらに近くに居たコハクを引き寄せ、人質にしようとした。
そこまでは良かったのだが。
「帰れ、チェンの手先どもめ!帰らないと・・・帰らない・・・と」
彼女も自分のソーマの形を思い出したのだろう、そこで言葉に詰まってしまう。
そして思いついた脅しが、コハクの顔を筆でベタベタにする・・・というものだった。
この絵具は一週間は取れないと叫んでいる。
 そんなベリルをよそに、が小声でヒスイに話しかける。
「わ、悪いコじゃなさそうだけど・・・思念術持ちだ、使われると面倒な事になるよ」
「だな・・・俺が気を引くから、その隙に・・・!?」
作戦中の2人をよそに、真っ直ぐにベリルを見るシングが動き出した。
『帰る』と言えば、信じてくれるのかと。
彼女は「帰ったふりをして襲う気だろ!」と、シングを信じるつもりは無いと言う。
シングはベリルに近づきながら、さらに問う。

「じゃあ、どうすればいい?どうすれば信じてくれる?頼む・・・教えてくれよ!」

コハクのスピルーンを持ってるベリルの疑う気持ちは、コハクと同じはずなんだ・・・そう言いながら。
彼が近付く事で、疑惑が恐怖にも感じられてくるのだろうか。
ベリルはコハクを抱えたまま、シングをソーマで殴り始める・・・来るな!と。
そして彼女は、ソーマを振るう自身ですら信じられないと泣き始める。
自分にもどうすればいいかなんてわからない、自分だって教えて欲しい!
真っ黒な気持ちが噴出して止まらない・・・。
誰も信じられない!何も信じられない!!自分ですら信じられない!!!


「こんなの・・・もう嫌だよぉ・・・誰か・・・助けてよぉ・・・」


 湧き出す感情に耐えられず、遂にベリルは気を失ってしまった。
「・・・わかった、オレがベリルを助けるよ」
「はっ、そんなにボコボコにされたのに、お優しいこったな」
シングに個人的な感情があるのだろう、彼の言葉をヒスイは鼻で笑った。
それでも、彼はそれすら受け止めているのだろうか。
この痛みなど、ベリルやコハクのスピリアの痛みに比べればなんでもない・・・そう言ってみせた。
「・・・朽葉の重念、総てを癒せ」
その詠唱の後、補助型弧法陣『ライフ・マテリア』が全員を囲む様に展開される。
直接的な治癒術程威力は無いけど痛みは和らぐはず、この上で治癒術を使えばその威力すら強化できる。
「これから向かうのはゼロムの巣窟、そんな体で行こうなんざ死にたがりのやることサ」
そして右手を軽く上げ、は2人より先にベリルへスピルリンクを開始してしまった。
直後、状況把握が出来てないシングに治癒術がかけられる。
「・・・仕方ねぇ、付き合ってやるよ」
シングの傷が治ったのを確認すると、ヒスイもまた先に、スピルリンクを開始する。
「みんな・・・」
彼も、ベリルへスピルリンクを開始した。


 3人がベリルのスピリアへ到達すると、そこには白と黒の2人のベリルがいた。
どうやらゼロムでは無いらしい。
「そうなると、2人はあのコの本心・・・でも何で2人も?」
幾人ものスピリアへリンクしたですら今回のケースは始めてらしく、少し戸惑っている。
だが、悩んでいる時間は無いらしい。
達を確認するなり、黒いベリルは3人をチェンの手先と決めつけ出て行けと叫ぶ。
シングが必死に助けに来たんだと弁明するも、やはり彼女は聞く耳を持たない。
さらに、信じて欲しいならばチェンの命を取って来いとまで言うではないか。
「なんでそこまでチェンさんを憎むんだよ!?」
異常なまでの疑惑ならわかる、やはりスピルーンの所為なのだろう。
だが・・・それが何故憎悪に繋がったのだろうか?
「・・・ボクの夢は宮廷画家になる事・・・あいつはそれをメチャクチャにしたんだ!」
シングの問いに、黒と白のベリルが交互に答え始めた。

 彼女は最初、宮廷画家となる為の登竜門、帝国芸術院コンクールに応募する絵のモデルをチェンに頼んだのだ。
絵のテーマは『英雄』・・・彼は世界の海を股にかけ、無一文から海運王に成り上がった伝説の男。
彼は快くモデルになる約束をし、彼女の絵も誉めたという。
出世できれば美術館を建てる・・・そう言って彼女を励ました。
彼女自身、絵を認められたのは初めてで凄く、嬉しかった。

それなのに・・・。

全て自分を罠にはめ、ソーマを奪う為の嘘だったんだ!!


「ひどい、ひどいよぉ!絶対に許せるもんかっ!!二度と信じるもんかぁっっ!!!」


 足場が揺れ、スピルメイズが生成される。
同時に、2人のベリルも消滅していた。
「あいつ、チェンの事を信じてたんだな・・・」
揺れが収まり、ヒスイがぼそっと零した。
信頼は疑惑と表裏一体・・・はそう思った。
シングもまた感想を述べる、『疑い』は嫌な感情だと思ってたが・・・違う。
「信じたいのに信じられない・・・裏切られるのが怖くて仕方無い・・・すごく、悲しい想いなんだね」
その悲しい想いからベリルを救いたい!
3人はスピルメイズを踏破していった・・・。