ベリルのスピルメイズは、影魔物よりもゼロムで溢れ返っていた。
かなりゼロムに侵食されている、急がなければ・・・!
3人がスピルメイズ最深部まで辿り着くと、やはり2人のベリルが待っていた。
シングは自分達を信じてくれ、と何度も説得を試みる。
「ふ、乙女のスピリアに土足で踏みこんでおいて『信じろ』だなんて・・・おこ『まが』しいんだよ!」
「・・・それを言うならおこ『がま』しいじゃないの?」
さっきも似たような間違いをしていたような・・・。
の呆れはともかく、ベリルは誰も信じないとそれだけを言い続ける。
信じて裏切られるくらいなら、誰も信じないほうがマシなんだと。
 途端、ゼロムの不気味な鳴声が響いた。
シングは2人のベリルを庇いソーマを展開、攻撃を弾き返す。
「意地張ってると、お前のスピリアもこいつに喰われちまうぞッ!来い、このもこもこ野郎!」
「トリトマ系が疑惑に反応してデカくなったから・・・ダウトリトマってとこ?」
ヒスイ、の2人もソーマを展開し、構える。
「きみのスピリアから本当に追い出さなきゃいけないのはこいつなんだ!」


 ダウトリトマは3人を敵と見なすと、大量の小型ゼロムを吐き出した。
「小型ゼロム・・・!、思念術を!」
小型ゼロム・エキナセアの厄介さを知っているシングは、に思念術を要請する。
了解した彼女は、隊列最奥にて詠唱状態に入った。
その間、シングとヒスイはエキナセアの迎撃に当たる。
だが、的が小さい上エキナセアは5体ほども居て・・・2人はダウトリトマの動きに気が付かなかった。
「襲え、闇ね・・・ちょ、マジ冗談・・・ッ!?」
防御体勢を取るも、わずか反応が遅れる。
ダウトリトマが発動したシャドウエッジが、に直撃した。
トリトマ系は通常思念術を使わない・・・そう思いこんでいたからこそ生じた油断。
さらにシング、ヒスイの2人はエキナセアの迎撃に手一杯で、やはりダウトリトマの動きにまで気が回らない。
そして、ダウトリトマの発動したスパイクストーンが2人を襲う。

その時。

狙いが外れたヒスイの矢をエキナセアが、ダウトリトマが異常な動きで避けた。

 これを戦い慣れたが見逃すはずが無い。
「弱点見つけた・・・天鵞絨の嵐念、風となれ!!」
声と共に嵐念が収束し、補助型弧法陣『チャージ・ヴィント』が展開される。
本来の効果は、すぐに次の行動へ移れるように身体・精神への負担を減らすもの。
だが今回も目的は、弧法陣からソーマへの風属性付与。
「こいつらもう全部叩き潰したほうが早い!行こうシング、ヒスイ、援護頼んだ!」
はそう叫んで前へ出る、途中で「後ろは性に合わない」と愚痴を零しながら。
 先の迎撃でエキナセアの体力も殆ど残っておらず、弱点の風属性をつかれ、その数を減らしていく。
2人はエキナセアを吐き出させる暇無く、ダウトリトマへ攻撃を確実に当てていく。
は飛び上がり、ダウトリトマを下から上へ、ソーマの爪で引き裂く。
「喰らえ絶翔斬!ヒスイ、次よろしく!」
そのままダウトリトマの後ろ側へ回り、バックステップで距離を取って引き付ける。
ヒスイの思念術の詠唱は完全に終わっている。
「怒りの嵐念、ぶちかますぜ!クロスウィンド!」
の攻撃で怯んだ所を、四方から刃となった風が襲い掛かる。
「これで終わりだ・・・疾風閃!!」
そしてとどめに、シングのアステリアがダウトリトマを貫き消滅させた。
この時誰もが、虚空へ消えたゼロムへスピルメイズから出て行けと、この世界から消えろと叫んでいた。


 少しして、2人のベリルが不思議そうに顔を出した。
本当に、助けてくれたのかと。
そんな彼女にシングは笑いかける、約束したからと。
けれどベリルはむくれ、シングのようなバカ正直なバカは、人に利用されてバカにされるだけと憎まれ口を叩く。
それでも彼は、そうかも知れなくとも・・・ベリルのスピリアを救えたのなら良いと言った。
「ふ〜んだ!バカのクセにかっこつけるなんて・・・おこ『がま』しいんだよ!」
「あ、今度は間違えなかったネ」
はわざと、茶化してみる。
 2人のベリルは恥ずかしそうに消え、後には黒く光るスピルーンが残った。
これが疑惑の根源なのか。
そう思うと少し怖気付いてしまうが・・・それでもコハクの一部、持って帰らない訳にはいかない。
3人はスピルーンを回収すると、それぞれベリルのスピリアからリンクアウトを行った。