疑惑も無くなり。
3人が現実へ戻ると同時に、ベリルが目を覚ました。
シングが気分を訊くも、彼女は普通と答える。
大元のゼロムを消滅させたのだから、失敗した訳ではないはずなのだが?
が首を傾げていると、突然チェンがエカイユを連れて倉庫へ入ってきた。
ベリルは咄嗟に身構えたが、チェンはそんな彼女を手で制止した。
「おめぇとのゴタゴタも終いだぜ」
そう言った後、また別の女性が倉庫へ入ってきた。
銀髪に長身のスタイルの良い女性・・・名はイネス、彼女は1人で盗賊団を壊滅させ、荷を奪い返したと言う。
さらにチェンは、ベリルの失敗分をチャラにすると言い始めた。
「ええ!?ホントに・・・いいの?」
ベリルの素直な反応に、彼も面食らう・・・一体どうしたのかと。
シングが疑惑のスピルーンを取り出した事を話すが、ソーマ使いでないチェンはいまいちその意味が理解できない。
「よくわからねぇがせっかくの強いスピリアを弱めちまったって事だな」
その言葉を聞いたシングの態度が、少しだけ変わった。
疑惑を持たないスピリアは、弱いスピリアなのか・・・と。
チェンはそれを否定しなかった。
「人を疑い、人から疑われる事を恐れない強さで俺はここまで成り上がったんだ」
シングはただ、その言葉を繰り返すだけだった。
話の切りがついたと見たエカイユは、ベリルの契約書を取り出した。
「・・・え???」
そしてそれを、イネスへ手渡した。
彼女曰く、盗賊退治の手間賃としてベリルのソーマを譲ってもらったらしい。
ソーマを差し出すのが嫌なら、代金は体でとも言う。
「・・・ま、詳細は後程ゆっくり」
それを聞いてベリルの開いた口は塞がらず、驚きすぎて体も微動だにしない。
チェンはいつも通りに大きく笑い、人を信じてもロクな事はないと言う。
「命を狙おうったって今度は、盗賊団を壊滅させる人が相手だぞ!」
話はそれだけ、エカイユが頭を下げると3人とも倉庫から立ち去った。
「な、なんだよそれ〜っ!!?」
3人が立ち去って少ししてから、負け惜しみの如くベリルが叫んだ。
「結局、ボクの宮廷画家への夢はこれまで・・・?」
やっぱり誰も信じるものか、彼女は一際大きく叫んだ。
シングが必死で慰めようとするも、ベリルの怒りは収まらない。
とヒスイが顔を見合わせ、同時に溜息をついた。
「・・・あんたら、名前なんてったっけ?」
怒りの収まらないベリルは、急に不機嫌そうに3人へ尋ねる
それぞれが名を名乗ると、彼女は何故かシングのみを睨み付けた。
「他2人はまだ良識がありそうだからいいけど・・・シング!」
乙女のスピリアに土足で入ってくれた恨み、忘れないからね!!
ベリルはソーマを再び取り出すと、シングの顔に何かを書いて倉庫から走り去っていった。
「あいつめ・・・スピルーンと関係無く、元々性格が捻じ曲がってんじゃねぇか!?」
走り去ったベリルの反応を見たヒスイが零す。
コハクとは彼女の最後の行動が気になり、シングの顔を覗き込む。
そこには字が書いてあった。
『ア・リ・ガ・ト』
2人が声を揃えて読み上げると、シングは嬉しそうに笑い始めた。
やっぱり、ベリルはいい奴なんだと。
「けど・・・サ、その絵具・・・一週間取れないーって言ってなかったっけ?」
の言葉に、シングの顔が一瞬強張った。
「あうう、宿に帰って顔洗わなきゃ・・・」
コハクが不思議そうに小首を傾げる中、3人はベリルの微笑ましい行動を笑い始めた。