ようやく合流




 帝国軍との圧倒的な戦力差から、オーランド平野からの王都奪還は困難を極める。
そこで王国軍はひとまず軍備増強に、古くから友好のあるエンベリア公国領へと向かう。

 だが、公国領との国境地帯であるロルカ湖畔にて、
その期待は脆くも崩れ去る事となる。

さらに王国解放軍に独りの兵士が合流する。
それは、さらなる絶望を意味していた。



Chapter1 失われた日々

BF01 ロルカ湖畔




 真昼の太陽が輝く中、身の丈ほどもある大斧を片手に少女が走る。
腕や脚や、右瞳を覆うように頭部に巻かれた包帯が痛々しい。
それでも長い浅葱色の髪は、ロルカ湖からの光を受けて輝いていた。
・・・銀の瞳は不安で翳っていたが。


 ロルカ湖畔を走り続けてしばらく、レイニの町が見えてくる。
町の様子は尋常ではなく、彼女の不安がさらに大きくなった。
これまでにも、彼女は荒れたこの地を、傷つき倒れた兵士を何人も見ていたのだった・・・。
「そんなっ!」
 嫌な予感というものほどよく的中するモノで、
レイニの町は、本来友好種族であるはずのウンディーネに襲撃されていた。
民は口々に助けを求め、叫び、逃げ回る。

 そんな中、彼女はウンディーネと戦う集団を見つけた。
よく統率が取れている、どこかの軍隊だろうか。
視線を上に向けると・・・風ではためく白鳳旗が目に入った。
彼らが掲げる紋章もまた同じ、王国軍だ!
 先頭に立つのは、片や見慣れぬ盗賊たちだが・・・もう一方は銀の鎧に蒼の装飾の騎士。
「あれは、王国第三騎士団!それに先頭の方はデュラン様!・・・じゃあ!」
彼女は必死になって、彼らの周辺を見回す。
そこで金髪碧眼の少女を見つけた、彼女へ向け一気に走り出す。
「姫様・・・ッ!ユグドラ様!!」
「貴女、チェレスタなの?無事だったのね!」
ユグドラが嬉しそうにチェレスタへ駆け寄る。
「遅くなって申し訳ありません、しかし・・・この状況は一体、何故ウンディーネが?」
「それが、私たちにも・・・とにかく、今は町を解放するのが先よ!」
「御意!」
そう叫ぶと、チェレスタは今度は前線へ向けて走り出した。


「そこのウンディーネ!何故罪も無い住民を襲う!?ばかなことはやめるんだ!」
 戦いの最中、ウンディーネへ向けデュランが叫ぶ。
理由が欲しいと言わんばかりに。
 だが、彼女達は返答どころか聴く耳すら持たない。
「黙れ!身勝手な人間たちよ・・・邪魔をすればお前たちも容赦はしない!」
隊長格のウンディーネが叫ぶ。
「このイシーヌ、女王の片腕の名に懸けて任務を果たして見せるッ!」
 女性でありながらも、堂々としたその立ち振る舞い。
まさに・・・戦士。
 だが、王国軍も敗れる訳にはいかない!
怯む兵士達を奮立たせようと構えた瞬間、隙ができた。
「デュラン、後ろだッ!」
不覚にも取られたのは背後、防御も間に合わない・・・!

 その瞬間、少女が割り込んだ。

 身の丈はあろうかという大斧が、ウンディーネの槍を弾き飛ばす。
そしてデュランの方へと振り返る。
「遅れてすみません!チェレスタ只今戻りました!」
「チェレスタ・・・?無事だったか!」
 予想もしない展開に混乱するウンディーネ。
ついでに何故か盗賊たちも一緒に混乱している、これは誰だ・・・と。
「おいデュラン、そいつは・・・?」
「私の部下だ、元々第三騎士団の者なのだが、任務で少し離れていた」
「・・・てコトは味方、でいいんだよな?」
盗賊の頭である少年が訝しげにチェレスタを見ている。
「はい、僕は第三騎士団所属のチェレスタです」
「オレはミラノだ・・・ま、見ての通り盗賊だが、よろしくな?」
2人は軽く挨拶を交わすと、それぞれ敵へ向かって武器を構える。
「したい報告もありますし・・・彼女達にはさっさと立ち退いてもらいましょう!」
「・・・だな、よっし行くぜ!!」
それを合図に全軍が一斉に、ウンディーネ達へ突撃する。
 心強い人物との再会に、一気に勢い付く王国軍。
そんな彼らの前に、戦い慣れぬウンディーネは相手にならなかった。
「くっ・・・!人間達よ、覚えていろ!」
 結果、ウンディーネ達を撤退させる事に成功した。
それから住民の無事の確認と保護に回る。
「何とか間に合いました!住民は皆、無事のようです」
「良かった・・・」
全ての報告を聞き終えたデュランが、さらにユグドラへ報告する。
全員無事・・・と聞いてユグドラもようやく安堵した。

「しっかし・・・見かけによらず狂暴な連中だな、ウンディーネ族ってヤツは」
「本来は気高く、優しい種族のはずですが・・・何故・・・」
ウンディーネ達の急激なまでの豹変に、一同は戸惑いを隠せない。
彼女達を始めてみるミラノ達の感想が、例え間違っていたものだとしても・・・それに反論できるものが居ないほどに。
 町の人曰く、古来この国ではウンディーネとの関係は悪くなかったのだが、
ある日を境に彼女達は突然、人を襲うようになったらしい。
このままでは王国奪還の協力を得ることも出来ない。
王国軍は急ぎ、水の都エリーゼへ向かう事となった。


 今後の方針が纏まったところで、今度はチェレスタへ質問の嵐が飛ぶ。
兵士達が一斉に質問するものだから・・・どれから答えれば良いのやら。
困り果てていた彼女へ、デュランが聞いた。
「チェレスタ、お前が戻ってきたと言う事は・・・やはり第二騎士団は・・・」
「はい・・・もう残っている王国の部隊も、ここだけです」
彼女は俯きながら、仲間の死を報告した。
兵士達も、それを聞いて一斉に黙り込む。
王国軍はいよいよ崖っぷちに立たされたのだ。

「それでも」

透き通るような少女の声。
「それでも・・・戻ってきてくれて良かった」
チェレスタに優しく声をかけたのは・・・ユグドラ。
「それに貴女はまだ生きてるもの、頑張りましょう?みんなのためにも」
ユグドラはチェレスタの目を真っ直ぐに見つめ、優しく手を握る。
「ユグドラ様・・・・・・わかりました、志半ばで散っていた仲間の為にも・・・」


王国解放へ向け、全力で戦います。



王国軍は東へ進軍する、水の都へ向けて。