今度はオマケつき




水の民に襲われていた町を救う為、
イシーヌ率いるウンディーネ族と刃を交える王国軍。
エンベリア公国へ一体何があったのか。
その真相を確かめる為、
再び友好国として協力を得る為エリーゼへ向かう。

しかしその途中、
彼らは信じがたい光景を目にすることとなる・・・・・・。



BF02 フェリナス湖畔




 水の都エリーゼを目指し、一行はフェリナス湖畔西岸の町ヴェラスへ辿り着く。
そして王国軍は、信じ難い光景を見た。
「だ、誰か、助けてくれ!」
それは、ロルカ湖畔の町よりも更に荒らされていた町の姿だった。
町で暴れているのはウンディーネだけではなく、
混乱に乗じた山賊までもが暴れていたのだ。
「あれは・・・盗賊か!?」
「・・・レネシー山脈の山賊どもか」
「治安が悪化したのに便乗しているようですね・・・デュラン様、ここを通るには連中を蹴散らすしか」
それに、町がこのまま荒らされているのを黙って見過ごす訳にも行かない。
「親分、妙な連中が来ますぜ!」
「ふん、ワシらの仕事の邪魔をするとはいけ好かんヤツらだな…
おめぇら、このオルテガ山賊団の力、連中に見せてやるぞ!」
おう!と雄叫びを上げる山賊。
「私たちも行きましょう、早く皆を助けないと!」
王国軍も、急ぎ敵へと向かった。


 ヴェラスもまた、助けを求めた住民が無秩序に走り回る。
そこへ襲い掛かるウンディーネ達に山賊団。
「デュランは住民達の保護と誘導をお願いします!ミラノさんはウンディーネの牽制を!」
ユグドラが次々に部隊へ指示を飛ばす。
 次の指示を出そうとしたその時、山賊団が頭、オルテガが彼女の前へ立ちはだかった。
敗れる訳にはいかない、ユグドラが聖剣を構える。
「ほっほー!何て綺麗なお嬢ちゃんだ!こりゃあ、いい値で売れそうだぜ」
「な・・・無礼な!寄らば、斬ります!」
会うなりいきなりのこの言葉。
礼節も何も無い言葉に、ユグドラは怒って聖剣を突きつける。
「ひょー!おっかねえおっかねえ」
だが、恥ずかしさから赤くなったその表情にでは、説得力が足りなかった。
 しかし本気で怒る人間も中にいるもので。
「その言葉、もう一度言うのなら・・・分かるよね、この斧が何処へ向かうか」
ユグドラとオルテガの間に、何時の間にやらチェレスタが乱入していた。
表情は不気味なまでににこやかで…何とも言えぬ迫力を感じる。
恐怖の笑顔にたじろぐ山賊団。
オルテガが渇を入れるものの、恐怖が強くて思うように動けぬ者が続出する。
「所詮は賊・・・なんですね、行こうみんな!今なら軽く蹴散らせる!」
王国軍は鬨の声を上げて山賊を蹴散らしにかかる。
いくら賊と言えど、怯んでいては相手にならなかった。

 一方、ミラノの方の戦いも終局に向かっていた。
やはりウンディーネ達は戦いなれていないらしく、ユグドラとチェレスタ、
住民の保護を終えたデュランの隊が戻ってきたときにはもう、彼女達は撤退を始めていた。
ただ、一部のウンディーネ達は足止めの為に未だ立ち向かってくる。
「もうおやめなさい!何故こんなことをするの!?」
「あ、あんたたち人間のせいよ…!」
「オレたちのせいだと?」
「・・・一体なにがあったのか?」
「人間があたしたちの宝・・・『転生石』奪ったからよ・・・・・・」
 転生石?とチェレスタが首をかしげ、ユグドラとミラノが顔を見合わせる。
それを見たウンディーネは息も絶え絶えだが、説明を始めた。
女系の種族である彼女達はは転生する事で生き永らえている事、
転生石が無いと転生出来ずに老いて滅ぶ事、
だから不老不死の秘術のために人間の生き血が必要だった事。
「誰だ?そんなバカな方法を吹き込んだヤツは!?」
ミラノが呆れたような、怒ったような反応をする。
「旅の魔術師が・・・教えてくれた・・・・・・何者かはし・・・知らな・・・・・・」
そのまま彼女は息絶えてしまった。
「・・・くそッ!潮時だ!ズラかるぞ〜ッ!」
ウンディーネの隊が撤退したのを知ってか、遠くで山賊も撤退を始めた。
とりあえず、ヴェラスは解放された。


人の生き血が要る。
だからウンディーネ達は町を次々に襲っていたのだ。
「ゆ、ゆ、ユグドラ様〜ッ!!」
重い静寂を引き裂くかのように、チェレスタの声が響く。
「どうしたの?」
王国軍の注目が一斉に彼女へ向かう。
「先程助けた町の人が、て、帝国の軍人らしき者を見たと!」
「なんですって!?」
誰もが驚きを隠せず、浮き足立つ王国軍。
「・・・帝国の軍人だってよ」
「ユグドラ様、デュラン様、ミラノ様、これが本当なら・・・騒動の首謀者は・・・・・・」
「とにかく落ち着くんだ、チェレスタ。お前が取り乱せば他の者まで動揺する」
デュランがパニックで落ち着かない様子のチェレスタを宥める。
確かに、報告した本人が慌てていれば只事でないのは明白だ。
それに気付いた彼女は、次第に落ち着きを取り戻した。

が。

「許せない・・・こんな平和な国にまで謀略の手を伸ばすなんて・・・」
今度は逆にユグドラが怒りを顕わにする。
しかし、王国とエンベリアとの関係を考えれば当然の反応であった。


「平和・・・?追い滅びる道を辿る運命を貴様達は平和だと言うのか?」


 突然無感情な声が響いた。


 噂をすれば何とやら、姿を現したのは帝国の暗殺部隊。
「帝国軍・・・こんなところまで・・・・・・」
「のんびりしてるヒマはねーみたいだな!」
王国にとって、本当の敵である彼らへ突撃する。
筆頭はデュランにチェレスタ、機動力のある2人の隊が担当した。

「・・・ジルヴァ様、本当にこれでよかったのでしょうか・・・・・・?」
「エレナ・・・戦いの場に情など必要ない、確実に任務を遂行することこそが我々の使命なのだから」

 帝国暗殺部隊は一斉に弓を構え、撃つ。
歩兵部隊はなんとか避ける事が出来るものの、一方的な攻撃に騎馬隊の足が止まる。
「弓か・・・厄介だがオレ達の敵じゃねぇな!」
進軍が困難なのを見るなり、突っ込むミラノ盗賊団。
次々に暗殺部隊を撃破して行く。
「・・・これも命令なんです」
言葉の直後、ミラノの方を一本の矢が掠めて行く。
 放ったのは先程エレナと呼ばれたアサシン。
その隙を逃さず、暗殺部隊長ジルヴァが左腕の鉄爪で彼へ襲い掛かる。
「・・・このっ!」
すかさず武器で防御するものの、不意の事で押されがちに。
ユグドラ、デュランの隊は弓に足止めされ思うように追いつけない。
 しかしたった1人、チェレスタが動いた。
「護人ハシャハティの言の葉・・・悲劇の中に出で戦塵の中に現れる聖杖の賢者・・・」
突然の魔力の鳴動と集結。
逸早くそれを察知したがエレナが彼女へ弓を向ける。
だが遅く、既に足元には紫の光で魔陣が描かれた。

「その杖、我等を護る盾とならん!!」

声が響き、放たれた矢は全て光の壁に弾かれる!
魔文の詠唱が続く限り壁は消えない、元を断ち切ろうとアサシン達が彼女に襲い掛かる。
「させるかッ!!」
遅れていたデュラン隊が進路を変えてチェレスタの防衛に回る。
白兵戦でなら彼等の方が有利、形勢はみるみる内に引っくり返った。
「武器を捨てなさいッ!」
そしてユグドラ、ミラノの両者がジルヴァを打ち破った。
「帝国の兵士達・・・答えなさい!ここで何を企んでいたの!?ウンディーネ達をそそのかし住民達を苦しめて・・・」
だがジルヴァは逆に、ユグドラへどう彼女達を救うかを聞き返す。
転生石の無い彼女達が滅びるは必定、そして・・・
「我々は滅び行くウンディーネを哀れんでやっているのだ・・・フフ・・・」
そして帝国軍は、質問に答えぬまま撤退。
残された王国軍はただ、訳も解らぬまま呆然としていた・・・。


「…ここからが大変だな」
ミラノがユグドラへ話しかける。
「確かにこれだけ暴れたのなら・・・向こうも警戒して迎撃の為兵力を増強してるでしょうね・・・」
チェレスタが心配そうに騎馬上のデュランを見上げる。
彼もまた、何も言えなかった。
「でも・・・」
ユグドラはそれでも、前を見据える。
「このまま見過ごす事は出来ません、エリーゼへ参りましょう」
ウンディーネの女王に会って・・・この戦いをやめさせなければ!
そう言った彼女の瞳は、何かを決意したような・・・それでも迷いに満ちた色をしていた。

 王国軍が寂れた港町へ差し掛かった時、デュランが誰か居ることに気が付いた。
「誰かいるのか!?」
物陰から出てきたのは、11、12歳くらいのウンディーネの少女だった。
大人のウンディーネよりヒレの数が少なく、未発達だ。
「驚かせてごめんなさい、わたしニーチェ・・・あなたたちのことここで待ってたの」
その言葉にざわつく王国軍。
「・・・『転生石』の事、知ってる?この争いの原因なの」
「ユグドラ様、さっき倒れたウンディーネも『転生石』って・・・」
「え、ええ・・・」
ニーチェは転生石について、先のウンディーネとは別の説明を始めた。
 それは水の民の大事な宝物であり、それを持ち出したのは彼女の姉である事。
人間の男に騙されて、転生石を隠し場所から持ち出してしまったと・・・。
しかし男は転生石が欲しかっただけで、それを知った姉は泣きながら自殺してしまった、と。
そして彼女は、姉や皆の為に転生石を取り戻したい・・・と。
「お願い!ニーチェも一緒に連れてって!お姉ちゃんのことで・・・ニーチェ・・・もうみんなの所、戻れないから」
ニーチェは必死に訴える。
全ての判断がユグドラに委ねられた。
「・・・分かったわ・・・・・・」
 少し迷いながらも、ユグドラはそれを了承する。
すると当然、デュランが抗議に出る。
少女を戦場に出すのか、と。
それに反論したのはユグドラではなく、ミラノだった。
結構しっかりしてそうだし、戦力は多いに越した事は無い、まあ大丈夫だろ・・・と。
「それに・・・きっと彼女は誰よりもフローランドの事を知っていると思います、戦力にならないとは思いますよ?」
フローランドとは水の都エリーゼのある孤島である。
確かに王国の人間よりも、公国出身の者の方が詳しいのは確か。
チェレスタも加入に賛同し、結論が出た。
「ありがとう!ニーチェきっと役に立つから!」



 新たな仲間を加え、王国軍はさらに進む。
エンベリア公国首都水の都エリーゼ。
さらには女王エメローネの住まうアクアパレスへと。