黒騎士
駆けつけた王国軍の活躍と黒薔薇軍が誇るアンクの絶大な威力により
白薔薇・帝国共同戦線は壊滅し、白薔薇軍は撤退を余儀なくされた。
白薔薇家と帝国が手を組んでいる事に危機を感じた王国軍は,真意を問う為王国軍は白薔薇館向かう。
しかしユグドラと、当主ロザリィとの会談中に急を告げる知らせが入る。
BF05 白薔薇領
マゼッタ橋のたもとにて、王国軍はただ、悩んでいた。
さてどうしたものか、まさかヴァーレンヒルズが内戦状態になっているとは誰も思っていなかったのである。
このままでは両陣営から協力を得る所か、そしてこのまま内戦が続けば。
「きっと両陣営ともアンクを撃ちまくるのだろうな、そしてあの威力だ」
「敵だけじゃねえ、この辺り全部がえらい事になるその先に待つのは・・・」
イシーヌとミラノの言葉から誰もが連想する光景。
辺り一面不毛の荒野。
ロスト・アリエスの再来。
そうなる前に手を打たなければ・・・。
ユグドラは白薔薇家総帥・ロザリィへの会見を提案する。
話が聞きたい。
それに五頭竜将の1人、ラッセルが何故ここにいたのかも気になる。
彼女等は白薔薇家へ会見を申し込んでみる事にした。
「大丈夫でしょうか、今さっきあれだけ派手にぶっ飛ばしたのに・・・」
ロザリィとの会見が始まる頃には、辺りは既に暗くなっていた。
ユグドラが話してる最中、彼女は終始不機嫌そうだった。
「ふぅん・・・それで?あたしらに剣を収めろって?」
何も知らないあんたらにそんな事を言われる筋合いはないわよ。
ユグドラの話は、あっさり蹴られてしまった。
「でも・・・貴女もあの、アンクの威力を見たでしょう?」
このまま争いを繰り返せばこの地は焦土になる・・・!
彼女は訴える。
だが、それも分かっているから早めに決着を着ける。
どうあっても退く気はない。
「まぁ・・・あいつ、ロズウェルの態度次第だけどね・・・」
ロザリィは最後の最後で回答をはぐらかす。
そう言った彼女の表情は、一瞬だけ年相応のものだった。
話し合いはこのまま平行線を辿るかと思われた。
だが白薔薇兵が1人、大怪我をした状態で屋敷へ駆け込んできた。
「どうしたの!?それにあんた、そのケガは・・・!」
どうやら敵の奇襲を受けたらしい。
先の報復かはわからないが、敵は黒薔薇軍との事だ。
兵はそれだけ伝えると・・・その場で息絶えた。
「・・・・・・受けて立とうじゃない」
ロザリィの瞳に、怒りと憎悪が込められた。
「待って!私たちが使者としてロズウェルさんの所に赴きます!兵を退くよう説得するから・・・」
ユグドラが制止する。
だがもう遅い。
敵は既に領内へ侵入している、説得に応じるはずもない。
ロザリィはゴーレムを召喚すると、制御の為に集中に入る。
「あんたら、邪魔するんだったらここから出て行って頂戴」
「なっ・・・ジャマだと!?」
邪魔という単語に反応して、ミラノがつっかかる。
「ミラノ殿、落ち着いてください・・・今は何をすべきか、わかりますね」
そんな彼をデュランが嗜める。
今は白薔薇領を戦禍から守らなければならない。
ユグドラが先を促した。
「・・・敵の侵入を阻止する為にゴーレムに橋を落とさせるわ」
振り向かずに、ロザリィが話し始めた。
手伝うというのであれば、橋を壊すまで敵の侵入を阻止してくれと。
ゴーレムがやられれば作戦は失敗。
「橋を落とすまでこの子達を守ってやって頂戴!」
ロザリィからの要請を受け、王国軍はマゼッタ橋のたもとに展開した。
黒薔薇軍の先鋒はスケルトン部隊。
早い段階で敵を食い止めるため、彼らは攻勢に出る。
それに、時間稼ぎと言うことが露見すれば、スケルトン達は彼女等を無視するかもしれない。
少しでも攻撃の目をこちらに向けさせなければ・・・。
1体、また1体と破壊されるスケルトン。
だがどういう訳か、スケルトンは尽きる事を知らずに次々と襲い掛かってくる。
圧倒的な物量の前に、次第に疲弊して行く王国軍。
焦りと不安からロザリィの集中も切れ始め、ゴーレムの制御精度も落ちてくる。
「王女様・・・このままじゃニーチェ達負けちゃうよ、どうしよう!」
「流石にこれでは数が多すぎる、どうするのだ!」
戦いの最中、ユグドラは必死で考える。
この状況をどう打破するか・・・数が多いのだから、減らせばいい。
どうやって「これ」は出てきているの?
召喚しているのは誰?
その人は何処に居るの?
探せる人はいる?
彼女の中で結論が出た。
「黒薔薇軍本隊に奇襲をかけます」
スケルトンは誰かに喚び出されているのだから、その元を断てばいい。
だが、敵本隊の位置もわからないのにどうやって奇襲を・・・。
そう言いかけて、デュランは止めた。
それが出来る人間が1人だけ・・・自分の部隊に居る事に気が付いたからだ。
魔導師の端くれ・・・ウォーロックである彼女ならばそれが出来る。
それぞれの持つ魔力を感じることで、その居場所すらもわかる彼女なら・・・。
「チェレスタ、頼めるかしら?」
「僕しか、いないんでしょう・・・大丈夫です」
作戦が成功したらすぐに戻ってくる事を告げ、彼女は夜の闇に紛れた。
夜の戦闘は余り得意ではない。
それでも何かを守る為に、誰かを護る為にチェレスタは走る。
漆黒の森をただ、ひたすらに。
そこから何かを見つけたらしく木の枝を踏み台に、高く跳躍する。
「そ、こだぁぁぁぁあああああああ!!」
上空から敵本陣に居るロズウェル目掛け、大斧を振り下ろす。
寸でのところで攻撃を避け、とりあえず彼は無事だ。
だが、今まで彼が建っていた場所は・・・派手にひび割れていた。
「暁のゾイエックの言の葉、戦場を照らし黎明の音を告げる鐘を打ち鳴らす者!」
幻聴か、はたまた本当に鳴っているのか・・・鐘の音が響く。
「今こそ暗雲の帳を引き裂け・・・」
彼女の左手が、パチンっと高い位置でなる。
同時に少しぼやけたような光が降り注ぐ。
「これでしばらく君以外は召喚も出来ない・・・ですよね?」
低下系魔術・オブリヴィアスドーン。
この魔術かかれば、余程意志の強い者で無い限りある程度の動作を制限されてしまう。
脱力と言う名の制限を。
「貴様・・・っ」
「僕は白薔薇領の民を護らなければならない、その為には貴方達を止めるのが手っ取り早い・・・そういうことです」
さらに遠くで2度、大きな地響きの後に何かが水へ落ちる音がした。
白薔薇館へ続く橋が2つ、全て落ちた音だった。
「くっ・・・失敗したか・・・」
「兵を退いてください、僕は貴方達を攻撃したくない!」
「残念だがこっちにはオレ様がいるんだ、そう簡単に退くかよ?」
森の奥から敵増援が現れた。
自信有りげに叫んだ騎士は、漆黒の鎧に身を堅め・・・夜の闇に紛れそうなほど黒い。
さらにチェレスタには、見覚えがあって聞き覚えがあった。
「お、まえ・・・黒騎士、レオン!」
目は見開かれ、唇が震えている。
そこで思い出すのは・・・王国第二騎士団の最期。
護りきれなかった彼等の・・・。
「お前、お前ぇぇぇぇえええええええええ!!」