真相のその先
中立都市マーヴェルは解放された。
だが白薔薇・黒薔薇両家の対立は止まらない。
このままではこの地が焦土になる、そうなる前にどちらか一方を滅ぼさなければならない。
王国軍は最大の決断を迫られていた。
そんな中暗躍する帝国軍、独り逸れた心術師は何を思う?
BF07 ヴァーレンヒルズ
マーヴェルから真っ直ぐ北上してしばらく。
どこまでも広がる森林地帯にて、チェレスタは足を止めた。
随分遠くへ来てしまった、戻らなければ・・・。
だが、彼女の頭からは先程の会話が離れず、戻るに戻れなかった。
第3者である王国軍が、この大地の運命を決定してもよいのだろうか?
確かに住民が可哀相だが・・・住民達はそれぞれの領主を慕っている。
本当は、この戦いに我々は介入するべきではなかったのだろうか?
しかし・・・何故帝国軍がここにいる?
ヴァーレンヒルズは確かにどこにも所属せず、独立した領地だ。
居てもおかしくはないのだろうが・・・時期が時期だ、疑わずにはいられない。
チェレスタはため息をついた、ここまでなら王国軍の誰もがわかっていることだ。
だが、どうしてもその先が出てこない。
帝国軍は何が目的でこの地にいるのだろうか・・・。
「・・・帝国が欲しがるような目的、ヴァーレンヒルズにあるとんでもないもの・・・?」
彼女はふとここで、失踪した義兄・レシュテの言葉を思い出す。
答えが出てこないのなら、1度発想を逆転させれば良い。
帝国がここにいるということは、彼らが釣られるような『とんでもないもの』があったのだ。
ではヴァーレンヒルズには何がある?
土地?技術?それとも・・・?
「あ・・・!!」
アンクだ。
帝国軍の目的は、両家がそれぞれ持つアンクだ。
あれさえ手に入れることが出来れば、強大な平気だって作ることができる。
帝国は今、大陸に覇を唱えようとしているのだから・・・。
それくらい平気で作る。
これを知らせることが出来ればきっと、両軍の激突も避けられるかも知れない!
早く、ユグドラ様に伝えなきゃ・・・まだ時間はあるはず・・・!
チェレスタは来た道を戻ろうとする。
「樹木と生きる気高きドリアでよ、茨を振りて我らの敵を討て!アイヴィウィップ!」
だが突如として、樹木の壁に道は遮られた。
「残念だったねぇ♪」
魔術を発動した声とはまた別の声、楽しそうな声が響く。
振り返った先には青年が2人程立っている。
紅い月が2人の姿を映し出す・・・チェレスタは驚愕した、声すら出ない程。
「今晩は、私の親愛なるも憎き片割れよ」
「久しぶりだね、元気にしてた・・・俺の可愛い義妹ちゃん?」
立っていたのは、自分と同じ顔の青年と、今まで義兄として慕っていた青年だった。
「に、義兄さん・・・?何で、それに君は・・・?」
チェレスタの瞳が、泣きそうなほどに震えている。
その瞳にはしっかりと、紅い月と2人の姿が映っていた。
「それはさ、俺が帝国の人間だからだよ」
レシュテは悪びれた様子も無く、しれっと言い放つ。
彼は元々帝国の人間であり、王国軍には密偵として所属、
帝国がカローナが攻め上がった際情報を全て持ち出し裏切ったと言うのだ。
「俺が居なかったらきっと、カローナはまだまだ堕ちてなかったんじゃないのかな?」
これが真実だとでも言うのか・・・?
レシュテはチェレスタへ追い討ちをかけるように、話し続ける。
「それにさ、俺がキミを助けたのもただの気まぐれだよ?何せフォルテに似てたからね」
そう言って彼は、チェレスタとそっくりな青年の肩に手を置いた。
「カローナ、パルティナ、ライネ、ソネッタ、オズ、ティルネア、マフェスタにロンバルド、記録を全部調べたんだけどさ」
「・・・認めたくありませんが、どうやら私とアンタは双子、ということらしいですよ?」
驚きすぎて、チェレスタは言葉を発するどころか動く事も、視線を動かす事も出来ない。
「キミを拾ったのが気まぐれなら、キミを愛した事も無かった、俺が愛したのはキミに映った双子の兄さ」
レシュテの冷たい一言が響いた。
その場に崩れ落ちるチェレスタ。
「ジルヴァ、エレナ、いる?」
「・・・ここに」
「レシュテ殿、如何なされましたか?」
アサシン2人は音も無く、闇から現れる。
「真相に気付いちゃったのが出たからさ、計画が狂っちゃって・・・ちょっと早いけど、2人に連絡を」
2人は闇と共に消えていった。
アンク強奪に向け、ついに帝国軍が動き出した。
チェレスタは我に返り、引き返そうとする。
「・・・無駄だと思いますが?」
フォルテの声と同時に、足元が泥沼と化した。
「!!?」
さらに先に発動していたアイヴィウィップが、彼女を泥沼へ引き込もうと絡みつく。
泥沼からは若干魔力が感じられる・・・魔術・マントラップにて発生した物か。
しかし、一体何時?
「キミが最初に考え込んでる時かな?気付いてくれなさそうだったからさ、時間で発動するようにこっそりと」
レシュテは不気味なほどケタケタと笑っている。
「「さようなら」」
森林には独りチェレスタのみが残された。
白薔薇領に居た帝国が動いた。
「ラッセル、一体これはなのつもりかしら?」
白薔薇館にエレナが到着してすぐ、クーデターが起こった。
ラッセルはロザリィへと、愛剣である斬鉄剣を突きつける。
「これも命令なんでね、大人しくしていれば命までは取らないさ」
「ま、キミには一緒についてきてもらうけどね?」
いきなり、レシュテが現れる。
「いやー・・・ここの魔導師も屍術師も馬鹿だと思ったけど、それ以上に馬鹿な心術師がいてさ」
「心術師、というと前の戦いでコーマカルマを使った・・・けど、あの娘は義妹なんじゃなかったのかい?」
体制は変えず、視線も動かさずにラッセルが問う。
彼も2人の関係は知っているようだった。
「あんなのただのフォルテの代わりだよ・・・最も代わりには程遠い程馬鹿だったけど」
レシュテは肩をすくめて、そう言った。
「おいおい、それは流石に・・・」
「元々愛してすらいないんだ、裏切ったなんて勘違いも甚だしいところだよ」
ラッセルはそれ以上、問う事も責める事も、何もしなかった。
「・・・てけるかっての」
ロザリィがぼそっとつぶやく。
「あんたらみたいな、情も何も無いアンタらになんか着いて行けるかっての!」
彼女は激昂した。
そのままラッセルの斬鉄剣を横にかわし、
レシュテに蹴りを入れたところで、愛用のほうきを手に白薔薇館を脱出した。
同時刻、黒薔薇館の帝国軍も一斉に動き出す。
ロズウェルを帝国兵が取り囲む。
「悪ぃな黒薔薇さんよ、だがオマエがボケっとしてんのが悪いんだぜぇ?」
その後ろで、レオンが悪いと言いつつこの状況を楽しんでいた。
「そう・・・自分達の事ばかりで他の事は一切排除、そんな貴方達が悪いのかと」
いつの間にかフォルテが合流していた。
「フォルテか・・・やけに計画の発動が早かったじゃねぇか」
「馬鹿なウォーロックが真相に気付いてしまいましてね・・・まぁ今頃は嫉妬の泥土の底でしょうけど」
そう言って彼はロズウェルの方へ向き直る。
彼もまた驚いた・・・先程自軍を蹴散らしたウォーロックと同じ顔をしていたから。
「そう驚かなくても、双子ならば、妹と顔が同じでも仕方ないでしょう?」
「ならば、お前は実の片割れを殺したと?」
「直接手を下したのは兄さんですけどね」
彼もまた、義兄同様不気味に微笑んでいた。
「そうか・・・どうやら我々とお前等とでは相容れないようだな」
レオンは嘲笑する。
「んな事ぁ最初っからわかってることだろォ?殺っちまえ!」
彼は部下に命令を下す。
だが、標的は『いなかった』。
「今が夜という事を、私がネクロマンサーである事を忘れたか?」
標的は自分の後ろにいた。
夜、ネクロマンサーのみに与えられた特権・・・短距離の転移。
ロズウェル程、力を持った者だと大して集中する事も無く発動できる・・・レオンはそれを知らなかった。
彼も、杖を片手に黒薔薇館からの脱出に成功した。
ヴァーレンヒルズにて、2箇所同時にクーデターが勃発。
ただ独り、真相を知る娘は硬化し行く泥土へ沈んで行く・・・。