不用心な発言にご注意
ヴァーレンヒルズでの戦いを終えた王国軍は王都奪還戦を守備の手薄な北部、
フラム穀倉地帯から行うことに決定した。
ここからフラム穀倉地帯は険しいレネシー山脈を越えなければならない。
だが、その中腹には悪名高いオルテガ山賊団が待ち構える。
山岳地帯を進む王国軍の前に屈強な山賊団が立ち塞がった。
Chapter2 パルティナ電撃戦
BF08 山賊の砦
王都奪還を目指し進む王国軍、歩みはレネシー山脈に差し掛かっていた。
「姫様、いよいよレネシー山脈です・・・ここからはかなり険しい山越えが続きます、どうかご容赦を」
ユグドラは眼前に広がるレネシー山脈を見据える、ここを越えればパルティナまであと少し。
「斥候の情報だと・・・この先に山賊の砦があるらしい」
「避けては通れないのか?」
情報を持ち帰ったミラノにイシーヌが聞き返す。
厳しい山脈越え、出来る事ならば戦いは避けて通りたい。
「無理ですよ・・・峠を塞ぐように砦が築かれていますし、それに・・・」
そう答えたチェレスタは、砦の方へと目線を動かす。
山賊たちは「賞金首が来た」と騒いでいる。
「それにあの山賊、どーやらエンベリアとヴァーレンヒルズを荒らした連中だぜ?」
「・・・わかりました、行きましょう!」
王国軍は山賊討伐へ向け動き出した。
先手必勝、とニーチェとイシーヌがダイヤモンドダストを放ち、それが戦闘開始の合図となる。
突然の奇襲に山賊たちはうろたえるものの、首領オルテガの一吼えで簡単に我に返る。
さらに地の利は山賊たちにある・・・この地で戦い慣れぬ王国軍は苦戦せざるを得なくなった。
そんな中。
「悪いが荒地は俺らだって戦い慣れてる!」
ミラノ盗賊団が先陣を切る。
「こんなヤツが山賊王だなんてな・・・同じ盗賊として恥ずかしくなってくるぜ」
「小僧・・・生意気言うじゃねーか!」
斧と斧がぶつかり合う。
それぞれが武器の重量に任せ戦いをする、剣戟が重く響く。
「荒野に棲む悪童リップフェイク・・・」
どこかで魔力の集中が聴こえた、だがその声はミラノに届かない。
それに気付いたユグドラが彼の名を叫ぶ。
「我らの敵に、岩石の雨を降らせ!」
だが、叫ぶも遅く、敵アサシンの魔術・ロックフォールがミラノを襲う。
「稀代の皇帝獅子王アレムロンド・・・御旗の下に、我らを護りたまえ!」
「光を奪われ翼を折られた天使、エイミアの呪い我らの敵に」
それを予測するかのように発動する魔術、エースガードにグラヴィティカオス。
そして後ろから飛び出した突撃槍と大斧が敵を蹴散らす。
「ミラノ殿、あまり無茶をなされるな!」
「ユグドラ様の守りはイシーヌ様とニーチェがついています・・・行きましょう!」
デュランとチェレスタの部隊が左右に展開する。
戦況が少し、王国側に傾いた。
あれから数十分も立たぬうち、今度は後方から例の賞金稼ぎが現れた。
あまりのしつこさに呆れるミラノ。
「アイツ、実はお前の事好きなんじゃねーの?」
「・・・そうなのですか?」
「バカ、本気にすんなって」
そのやりとりに、一部の兵士が噴出しそうになったのは言うまでも無い。
流石にイシーヌとニーチェの部隊だけでは分が悪いので、デュランの隊がミゼル迎撃に加わる。
現在オルテガの相手をしているのはユグドラ、ミラノ、チェレスタ、ロズウェル、ロザリィの5部隊。
それでも山賊の数が多く、力を温存している王国軍では中々撃退できない。
そんな時。
「ほっほー!イイもん身につけてるじゃねーか、呪い師のおふたりさんよォ!」
オルテガが歓喜の声を上げる。
しかし、このような輩の扱い方もそれなりには分かっていたのだろうか。
「下品ね、そこをどいて頂戴」
「フ・・・気品の欠片も無い奴だ・・・」
一蹴。
相当の鮮やかさに唖然とするユグドラにチェレスタ(それでも戦ってはいる)。
だが、馬鹿にされオルテガも黙っていられない。
「こんのアマっこにモヤシっこめ!」
・・・あれ?
一瞬にして変わった雰囲気をチェレスタが感じ取る。
「い、今・・・何か『切れ』ませんでした?」
「あーあー・・・あの山賊、死んだわね」
呆れるロザリィ。
空気が読めないのか読み辛いのか、ミラノが不思議そうにしている。
「・・・姫」
唐突に口を開くロズウェル、いきなり話しかけられたユグドラは素っ頓狂な声を上げた。
正直、何か怖い。
「潰しても構わないな?」
「あ、え、ハイ、どーぞ・・・」
一同何が起きたかはわかっても、何故そうなったかが全くわからない。
「アイツ、体力馬鹿の癖にモヤシって言われるとブチ切れるのよね・・・気にしてんのかしら?」
まぁほっときなさいな、ロザリィが軽く笑う。
彼が放ったグラヴィティカオスの威力がさっきより上がり、雑魚が一掃されていく。
・・・笑っていられる状況ではなかった、ちょっと。
その後ミゼルを追い返したデュラン、イシーヌ、ニーチェの部隊と合流。
オルテガを撃破することに成功した。
「やった、道が開けたよ王女様!」
「今のうちに前進しましょう、姫様!」
王国軍は進む、王都パルティナ・・・ファンタジニア王国奪還の為に。
その途中。
「随分高くなって来たな、そろそろ頂上か?」
ミラノがだるそうにデュランに位置を聞く。
だが彼の返答は、まだ中腹辺りということだった。
まだ上があるのかと弱音を吐くミラノ。
「頑張って、パルティナに着いたら貴方はお城が貰えるのよ」
「そ、そうだったな!よーし!もう少し頑張るか!」
ユグドラのその言葉に、彼は空元気でも元気を取り戻す。
「・・・姫様、そのお話は初耳ですが・・・?」
「え・・・?う、ううん。何でもないわ」
ヤバっ、聞こえた・・・?、ユグドラは慌てている。
きっと咄嗟の口約束だったんだろうな・・・とチェレスタは思った。
それからデュランの方を見ると、彼もなんとなくはわかっていたようだった。
それよりも・・・と、彼は視線を後方に移す。
「イシーヌ様、ニーチェ役に立ったかなぁ・・・?」
「ああ、お前が後方を守ったから姫は無事だったじゃないか」
その隣。
「アンタまーだ気にしてたワケ?」
「・・・放っておけ」
「全く、まだ先があると言うのに・・・」
「元気・・・ですね、皆さん」
微笑ましいのか、呆れるべきなのか・・・。
デュランは少しこの先が不安になった。
隣ではそれを必死にチェレスタが励ましていた・・・。
もうすぐレネシー山脈山頂、ルナミナ峠へ続く道が見える。