過去の軍師
突如現れた謎の女性ミステールの誘導により、
バルドゥス隊の猛追を振り切ることに成功した王国軍。
広大なレネシー山脈の更なる奥地には、今も活動を続ける活火山に、
自然要塞と化した軍師ブライの集落があった。
ミステールに導かれ、王国軍は軍師ブライの集落を訪れる。
一方、バルドゥスはレネシー山脈全域に偵察部隊を展開、
哨戒中のアイギナ隊とともに着実に王国軍を追い詰めていく。
そしてバルドゥスの姿を見たブライは・・・。
BF11 火山地帯
ミステールの案内で王国軍は、軍師ブライの住む村へ辿り着いた。
デュラン曰く、ここは守るにはうってつけの場所らしい。
地形配置も全て理にかなっているそうだ。
「流石は軍師ブライ、是非とも力を貸して頂きたいものです」
彼が1人感動していると突然、家の方から怒鳴り声が響いた。
どうやら言い争っていたらしく、家から出て行ったハンターは何処か落ち込んでいた。
「お爺様、何をそんなにお怒りですの?あまりプリプリするとお体に障りますわよ?」
ミステールは家から出てきた老人を祖父と呼んだ。
老人は彼女の姿を見ると、安心したのか笑顔を見せた。
会話の内容から、先ほどの罠を仕掛けたのはこの老人なんだ、とチェレスタは理解する。
「ところで・・・その後ろにいる連中は何者じゃ?」
そして彼は、ミステールの後ろに居た王国軍を訝しげに見た。
王国からのお客様ですわ、彼女は微笑んで紹介する。
「あなたがブライさんですね?あなたを探していたんです!」
紹介を受けるなり、ユグドラは前に出た。
だが、老人は自分がブライであることを否定しだしたのだ。
デュランが防護陣地の的確さや、罠の配置を指定しても尚否定する。
あまつさえ、ブライと言う男は死んだとまで言い始めた。
ユグドラも必死に、王国の現状を伝えようとする。
「是非、私の祖父に仕えたその用兵家としての力を・・・」
「・・・祖父じゃと?」
老人は彼女の祖父に仕えた、と言う部分に反応したらしい。
彼は名を尋ねる。
「パルティナ王国解放軍・・・ユグドラと申します」
「そうか、あの頑固者のオルディーンの娘か・・・」
そして老人は、そのオルディーンと呼ばれた人物がもう、この世には居ない事を見抜く。
ユグドラは、自身の両親は城内で討たれたと・・・。
「まったく、あの頑固者め・・・ワシの言うことを聞いておれば王国は安泰だったろうて・・・」
「貴方様は・・・一体・・・」
チェレスタの問いに答えるかのよう、彼は言う。
自分がブライだ、と。
「・・・せめて、話だけでも聞いて頂けますか?」
ユグドラの提案を受けながらも、ブライは力にはなれないという。
それでも・・・と、彼女はこれまでのことを話し始めた。
2人が話している間、他のメンバーは外で待機していた。
少し高くなった部分からここら一体が見渡せるらしく、ニーチェが興味有りげに覗き込んでいた。
「ねぇ、ミラノお兄ちゃん・・・あれ!」
突然、彼女が慌てて叫ぶ。
その先に居たのは、帝国軍。
彼はこの事を他のメンバーにも伝えるようにニーチェに言うと、自身もブライの家へ走り出した。
「おい、追っ手が来やがった、嗅ぎつけられたみたいだぜ!」
王国軍は戦闘準備に入る。
ユグドラは2人に隠れるよう言うものの、ミステールは歓迎しないと・・・と、戦う気だ。
彼女の無茶を諌めながらも、ブライは止めようとしない。
「姫!現れたのは帝国の偵察部隊、本体に通報されると厄介だ!」
イシーヌが現在の状況を、ユグドラへと報告する。
自分達の動きを気付かれた帝国軍もまた、王国軍へと攻撃をしかけてきた。
帝国軍の方は、偵察部隊なのでそう、人数も多くは無い。
王国軍は人数の差を利用し、帝国軍を包囲するように追い詰める。
「最前線はデュラン、ミラノさん、それにミステールさんにお願いします、
中列は私とウンディーネ部隊が、魔導部隊は後方からの援護攻撃を!」
兵からの報告を頼りに、ユグドラは布陣を組み立て指示を出す。
この作戦が成功し、王国軍は何とか早めに帝国軍を蹴散らす事が出来た。
「ユグドラ様、敵撃破です!こちらへの被害もほとんどありません!」
チェレスタの声を聞いた兵士達が勝ち鬨を上げる。
ブライとミステールの2人も無事と知り、ユグドラは安心していた。
だが、ミステールの強さは予想外だったらしく、何人もがそれを疑問に思っていた。
「ブライの孫とは言っても・・・一体何やって暮らしてたのかしら・・・」
「同感だ、あの動きはどーも素人とは思えねぇぜ」
そんなロザリィとミラノの会話を聞きつけたミステールは、即座に自分の生活を話す。
先も言ったように自分は専業主婦で、掃除洗濯炊事に・・・後は野良仕事も、と。
「主婦・・・って旦那様はどうしたんですか?」
チェレスタの素朴な疑問に、彼女は急に慌て始める。
訳がわからずニーチェと首をかしげた。
「それより、偵察隊の方・・・既に本体に連絡していたのではなくて?」
ミステールのその一言が、王国軍を現状へと引き戻す。
「しまった!姫様、あれを・・・」
「あれは・・・バルドゥス隊の本隊か・・・」
デュランとロズウェルの目線の先、バルドゥスの大部隊が到着していた。
「おい、ユグドラ・・・どーすんだ、このままじゃ・・・」
「若いの、今・・・バルドゥスと言ったかの?」
ブライは唐突に、敵将の名前を聞き返した。
王国軍はそれを肯定する。
それを聞いた彼は、何故それを先に言わないか、と声を張り上げた。
ブライ曰く、バルドゥスは帝国の軍人でもとびきり堅実で隙の無い男・・・、
正攻法で戦っても勝ち目は無い、と。
「あやつ、生きておったのか・・・」
そう呟いたブライは、王国軍へ時間を稼げと進言した。
相手がバルドゥスである今回限り、彼は力を貸してくれるというのだ。
そして、ヤツと決着を着けるときがきた・・・とも。
王国軍は、まずはまともには組み合わず、攻撃を受け流す方針をとった。
とにかく防御、守りを固めるのだ。
「・・・そこの魔導師達」
ブライは戦闘が始まる寸前、チェレスタ、ロズウェル、ロザリィの3人を呼び止め、
それぞれの得て不得手を尋ねた。
心理系を苦手としても、火炎系に特化したロザリィ。
地形系が使えない代わりに、暗黒や冷気といった攻撃系に秀でたロズウェル。
特に特化した所がある訳でもないが、全てを平均的に使いこなすチェレスタ。
彼はそれを聞き、次の作戦を練り始める。
相手は帝国軍随一の堅実さを持つバルドゥス。
崩せるか鉄壁の守り・・・背後に不穏な影2つ・・・。