赤と黒。
ブライの見事な戦術で、軍神バルドゥスさえも撃退した王国軍。
新たにミステールを仲間にし、一気にレネシー山脈を下山する。
王都パルティナを臨むフラム穀倉地帯へと辿り着いた王国軍を迎え討つは、
王都パルティナの北側門前を固める宮廷魔術師ユーディと、哨戒中のインザーギのみ。
レネシー山脈の守りを固めた所為か、南のオーランド方面に比べると城門前はかなり手薄となっていた。
豊かに実った麦畑を掻き分け、王国軍は王都へと攻め上がる。
BF12 フラム穀倉地帯
レネシー山脈麓、パルティナ北門からは死角になる場所で帝国軍の様子を窺っていた。
斥候が持ち帰った情報では、北門の警備はかなり手薄とのこと。
配置してあるのは宮廷魔術師・ユーディの部隊に、インザーギの傭兵部隊。
レネシー山脈にはバルドゥス、王都にはガルカーサの部隊を配置しているらしく、完全に油断しきっているという。
これを好機と見た王国軍は、山脈を一気に駆け下り奇襲に出た。
ここさえ落とせばパルティナはもう目と鼻の先、王国軍兵士達により一層、気合が入る。
「よっし、行くぜ!!」
意気揚々と突っ込んで行くミラノのシーフ隊が草原から、ウンディーネ隊が水辺からそれぞれ攻め立てる。
そこに隙無く騎士隊、魔導隊が続き、今までに無い攻撃的な陣形を形成する。
守りも後方にユグドラの近衛隊が居る程度で、彼女自身も攻撃に加わる。
突然の、それも攻撃に特化した陣形で奇襲された傭兵部隊は次々に潰されていく。
「・・・チェレスタ!」
そして一番堅い中央を崩すために、デュランの後ろに隠れていたチェレスタが宙へ飛ぶ。
空高く、宙返りをしつつ魔術の詠唱を始める彼女に、誰もが目を奪われる。
「風魔サエザルの言の葉・・・」
ウォーロック、それは四系統ある魔導師の内唯一、風を扱う事を許された魔導師。
盗賊達しか扱えない様な魔の住人を、いとも簡単に使役してしまう。
詠唱を続けながら敵陣中央へと着地、魔力を集めた両手を前へ突き出す。
「風陣を成して刃と為さん、総てを裂くは途絶える事無き狂乱の宴!」
チェレスタを中心に鋭い風が吹き荒れ、帝国軍を襲う。
王国軍はこれに乗じて攻撃を続ける。
結果、彼らは大した時間を稼ぐ事無く撤退を余儀なくされたのだ。
兵士は敵が潰走状態に入ったことを報告する。
「よし!このまま前進!目標は北門!全軍街道に展開する!行くぞ!」
最前線のデュランが叫び、全軍がロドニー街道へと展開していく。
だが、別方向を偵察していたミラノ盗賊団の子分が『厄介なもの』を発見したらしい。
カローナ方面から敵の援軍が接近しているというのだ。
誰の部隊かとユグドラが問う、どうやら接近しているのはアイギナの部隊。
「ええい、そっちは放っとけ!目標まであと少しだ、急ぐぞ!」
戦乙女の部隊ならば、大抵はヴァルキリーやアサシンで構成されているはずだ。
最前線で騎士隊・ウンディーネ隊が時間を稼ぎ、王国軍は街道への展開を急ぐ。
「お前達の思うようになどさせない!」
漆黒の甲冑に身を包んだアイギナが突撃してくる。
「あ、あれ・・・?」
そんな彼女を見た途端、チェレスタは違和感を覚えた。
だがそんな事を気にしている余裕も無い、まずはやるべき事を優先しなくては・・・。
それぞれの隊から展開完了の報告が飛び、情勢は王国軍へ有利に傾いた。
「どうやらまだ敵さんは混乱から立ち直っていないようですわ〜」
「何とか、うまくいったみたいね」
パルティナ奪還戦の第一段階を終え、彼女らは少し安心する。
それでもまだ気は抜けない、奪還した訳ではないから。
「王女よ、敵増援が来る前に決着を」
「ええ・・・一刻も早く北門の制圧にとりかかりましょう!」
そして王国軍は門前の残存部隊と交戦状態になる。
「レネシー山脈のアイギナは紅蓮の甲冑で、カローナと山脈は反対方向で・・・あ、あれ?」