自らの命など、惜しくは無い・・・救われたからこそ。
パルティナ北の守備を破った王国軍はロドニー街道を通り、北門突破を果たした。
そしてすぐさま北門を封鎖し、戦乙女アイギナの猛追を振り切る。
だが緋雪姫エミリオは城壁を越えて進入、王国軍へ背後から攻撃を仕掛ける。
王都入場を許した帝国軍だったが、場内警備についていた黒騎士レオンが城外への展開を開始、
宮廷魔術師ユーディが砲撃の準備を開始する。
エミリオが時間を稼ぐ間、着々と王国軍迎撃の態勢を進めて行く・・・。
BF13 北パルティナ
戦乙女アイギナを退けたものの、王国軍は中々南下できずにいた。
と、いうものの、伝令が北門へ敵の援軍が来たと伝えにきたのだ。
敵はエミリオ・・・わずか14歳の少女でありながら、『緋雪姫』の異名を取る五頭竜将の1人が率いる部隊。
それは、グリフォンにて空を翔るグリフライダーで攻勢された空挺師団。
ナイトを中心に組まれた王国の軍にとっては、天敵とも言える相手。
厄介な相手ではあるが、彼女を倒さない限り先へ進む事は許されない。
「緋雪姫エミリオは皇帝ガルカーサのお気に入り、五頭竜将のひとりでもある彼女を倒せば・・・」
少なからず、帝国軍の士気に影響を与える。
ユグドラが北門を攻め落とす意向を示し、それに続き突撃をかける王国軍。
「来たわね、王国軍!」
上空から、エミリオがこちらを見下ろしている。
「おいおい・・・将軍だって言うからどんなにゴツイ女かと思ってたが・・・コイツ、まだ子供じゃねーか!」
ある程度五頭竜将の事を知っていたユグドラ達と違い、事前情報のまるで無いミラノが驚く。
その発言が、結果としてエミリオに火をつけた。
「こ、子供・・・!?もうっ、許さないんだから!ボクをバカにしたこと後悔したって知らないからね!」
一気に降下する敵空挺師団、対する王国軍は騎士隊・ウンディーネ隊を下がらせ、ユグドラ本隊を中心に応戦する。
さらに魔導隊が牽制しつつチェレスタ、ミラノ、ミステールの部隊が防衛線維持に務める。
だが敵は境界線無き空を行く者、一筋縄ではいかない。
ここで、唐突にチェレスタはニーチェを呼んだ。
ニーチェは戸惑い、縋るような視線を向ける。
だがチェレスタには思うところがあったのだろう、力強く頷き、ニーチェもまた力強く頷いた。
直後、ニーチェは精神を集中させ、チェレスタは敵を撹乱する為エミリオへ攻撃を仕掛ける。
後方に居た者が急に前線へ出た為か、エミリオは彼女にばかり気を取られてニーチェの動きに気付かない。
「・・・凍っちゃえー!!」
突如、帝国軍を猛吹雪が襲った・・・炸裂するニーチェのダイヤモンドダスト。
何が起きたか、グリフォンの動きは次々と鈍って行く。
グリフォンは元々、ブロンキアやロスト・アリエスのような乾燥した地域に住む。
そして北の季節は雨季と乾季の2つ、パルティナの様に四季が有る訳ではない・・・ならば。
「そういう生物ほど寒さには弱いものです・・・多分」
多分とは言うものの、チェレスタの発言は自身に満ち溢れたものだ。
後ろでニーチェが「すごい、すごい!」とはしゃぎ、王国軍の士気もあっと言う間に回復して行く。
帝国軍が次第に押されていく中、逆上したエミリオは。
「もーっ、あったまきたんだから!」
「え?・・・え、あ、ちょ、ちょっと・・・わわわわわわっ」
王国兵達が次々にチェレスタの名を呼び、上を見上げる。
エミリオは自分のグリフォンにチェレスタの衣服を咥えさせ、そのまま空へ上がってしまったのだ。
チェレスタも突然の事に慌て、地上に武器を落としてしまっている。
しかし、エミリオも経験の浅さか、はたまた年齢の所為か。
「いい気味ね、何処へでも放り投げちゃいなさい!」
事もあろうにチェレスタを『上へ』投げさせたのだ。
確かに上へ投げようと下へ叩き落そうと、落ちればタダでは済まされない高さだ。
周囲でニヤつくエミリオの部下達も、これでチェレスタはしばらく動けない・・・そう思い込んだ。
「これは・・・彼女等は先程の戦いを視ていなかった、と言うことでしょうね」
そう、デュランが呟くと・・・チェレスタは空中で態勢を立て直す。
「双生のアリステラの言の葉・・・片翼を持って生まれし幼き女神・・・」
態勢を直しながら魔術の詠唱を開始する。
敵がこの事に気付いた時には全てが遅かった。
「空中戦で僕には勝てないよ・・・哀れな敵に移ろいゆく心を!」
チェレスタを中心として、マインドチェンジの光が辺りに広がっていく。
そして彼女は、如何にも慣れた感じで着地する。
さらにその後ろ、2人が詠唱を終わらせ左右を見据えた。
「全て凍ってしまえばいい!」
「我が魔力を見よ!」
イシーヌがダイヤモンドダストを、ロズウェルがかなり高威力のブリザードを放つ。
寒さに弱いグリフォンが極度の寒さに耐え切れず、次々失速する。
「な、何よあいつ・・・!絶対タダじゃおかないんだから!」
帝国軍空挺師団は総崩れとなり、エミリオは撤退を始めた。
北門を制圧した王国軍、ここからは城内の制圧と、城外の敵の殲滅に分かれる事になる。
ユグドラは少し考え込んだ後、それぞれに指示を飛ばして部隊を分けた。
城内の制圧にチェレスタ、ミラノ、ロザリィを充て、自身の隊を含めたそれ以外を城外へと向かわせた。
「よ〜し!王国軍め・・・一泡吹かせてやるわよ!」
城外でユーディ隊と元々警備に当たっていた部隊と王国軍がぶつかったのか、派手な音が聞こえ始めた。
それに対し、城内は不気味なほど静かだった。
「妙だな・・・やけに城内が静かだぜ」
あまりに不審すぎて、いつもなら勇敢に突撃をかけるミラノでさえ慎重になる。
彼を中心として左翼にロザリィ、右翼にチェレスタを据えて進軍する。
ある程度進んだ辺り、突然中庭方面から轟音が響いた。
「報告します!砲台です、帝国軍が城外の我が軍に対し砲撃を開始しました!」
先行していた偵察隊が帰還、敵の砲撃開始を告げる。
「まさか御同業、むしろ商売敵がいたなんてね!」
動き始めた敵と交戦、己の火炎攻撃が効かない相手にロザリィは悪態を付く。
城外にはユグドラの王国軍本隊がいる、何とかしなければ・・・!
さらに別方面から帰還した伝令は、敵に増援が現れたことを告げる。
先頭は黒騎士レオンの部隊、本人もいる。
「せめて砲台を落とせれば・・・っ」
そうすることが出来れば、一部隊を砲台防御に当たらせた上で、残り部隊でレオン部隊に奇襲をかけられる。
だが、守りは堅く中々落とすことが出来ない。
そんな時だった。
「ミラノ!助けに来たよ!」
先程の、帝国軍のとは別のグリフォンが飛んできた。
ミラノの知り合いなのだろうか、彼はグリフォンの上の少女に砲台を落とせ、と言う。
突然の援軍に戸惑う王国軍、それは帝国軍も同じ。
「やったぁ、砲台ゲット!」
彼女はいとも簡単に、砲台を落として見せた。
「み、ミラノ様・・・これは・・・・」
「安心しな、もう撃たれる心配はねーぞ・・・せっかく手に入れた砲台だ、タップリお返ししてやろーぜ!」
グリフライダーの少女の正体は分かるような分からないような、そんな状況ではあるが、
敵でない事は確かな訳で、さらに城外の味方を脅かした砲台もこちらに落ちている。
「だったら後は、中の敵だけよね?天上の聖人よ、我を導きたまえ!」
そう言ったロザリィは、すぐさま魔術の詠唱に入る。
「混沌を照らす破邪の光を以って!」
神聖系魔術・バニッシュが、慌てて逃走する帝国軍を追撃する。
本人曰く、神聖系はパルティナ王家から伝わった魔術の為、ユグドラには叶わないとは言うものの、
その威力は確かなものだった。
「・・・怒らせたくねぇ相手が増えたな」
そんなミラノの呟きは、幸い本人には聞こえていなかった。
城外では、デュランの騎士隊とミステールの近接隊を中心に部隊が展開されている。
その後ろをウンディーネ隊、魔導隊と続き、ユグドラは後方に位置していた。
戦力を分けた所為か、中々レオン隊を押し切れずに戦闘は膠着状態に入っている。
砲撃は止んだが、敵の勢いは衰えない。
「占師バスラハの言の葉・・・光届かぬ眼で未来を見る占師よ・・・我らが命運、汝に託さん」
声が聞こえた辺り、いきなりウンディーネ達の攻撃が面白いほどに当たるようになった。
何が起きたか分からず戸惑う帝国軍に、詠唱の仕方から発動者が解り歓喜する王国軍。
「よっし、行くぜ!!」
「邪魔しないで頂戴!!」
ミラノとロザリィが帰還しレオン隊へと奇襲をかける、城内制圧に成功したのだ。
チェレスタは城内での経緯をユグドラへと報告する。
そして今、砲台を制御しているのはグリフライダーの彼女。
「キリエ!目標は黒騎士の部隊だ、派手にお見舞いしてやれ!」
ミラノが叫び、砲台は攻撃を始める。
形勢は王国軍へと一気に傾いた。
それでも・・・チェレスタは、ずっと不安のようなものを感じていた。
レシュテが戦場にいる時感じる恐怖とは違う、漠然とした不安。
彼女の眼前、何かが居た。
大局には参加せず、確実に誰かを葬る為に存在する『何か』。
そして誰か目掛けて矢が、放たれた。
膨大な魔力がチェレスタへ一気に、彼女の焦りに呼応するかのよう集まりだす。
「・・・デュラン殿!下がれッ!!」
逸早く気付いたロズウェルが叫び、デュランの視界に矢が入る。
だが遅い・・・彼の眼が見開かれて、レオンの口元が歪む。
不安が現実となるか。
「・・・GLASDENN GURANDEE!」