キリエの加勢もあり、北パルティナを制圧した王国軍は南パルティナへと進軍する。
南パルティナには報せを聞いた軍神バルドゥスが、
レネシー山脈から逸早く帰還し、守備を展開する。
南門には焔帝ガルカーサが到着し、急ぎ兵を集め陣を整えていた。



BF14 南パルティナ




 北パルティナの戦いから数刻が過ぎた。
結局ミラノが心配だと戻ってきたキリエに砲台を任せ、王国軍は再度出撃する。
周囲は暗くなり始め、夕方を迎えた。
兵士が南パルティナの増援を、バルドゥスの到着を報告する。
「軍神バルドゥス!とうとうレネシー山脈から戻って来たか・・・」
さらに別方向からの報告が入り、その中にフォルテの姿を確認したという。
報告を聞いたチェレスタの表情が険しくなる。
キリエの砲撃が入っても、相手が強い事に変わりは無い。
「大丈夫よ〜、落ち着いて・・・ね?」
そんな彼女をミステールがなだめる、こういう時ばかりは彼女の天然ぶりが少し羨ましかった。
相手は強大・・・されどしばらくは夕方、彼女の時間。
いつもの魔導隊を離れ、今回はデュランの騎士隊に混ざって先頭に立つ。
彼を・・・自らの片割れと戦う為に。

 何故彼は、自分に殺意を抱いているのかを確かめる為に。

 王都正門側に敵はあまりおらず、南シェナ農区とパリス街区の解放を目指す。
ミラノの言葉を信じ、城内側をキリエに任せ王国軍はほぼ全軍を投入する。
防御に長けたバルドゥスの部隊、攻撃に特化したフォルテの部隊。
易々と落とせる相手ではない・・・だが、王国軍も又、負けられない。
「軍神バルドゥス、お相手願う!」
「王国騎士団長殿か・・・相手に不足は無い!」
軍馬の嘶きが辺りに響き、両軍の士気を上げて行く。
さらに帝国は、夕方がウォーロックの時間と知る者が少ない。
「灰被りのマイメイエの言の葉・・・月夜に舞う気ままなる妖魔、眠りの灰を我らの敵に降らせ!」
それ故、コーマカルマの威力いや、存在すら知らぬ者も多い。
敵兵は次々と睡魔に襲われ、崩れ落ちる。
ユグドラの号令と共に王国軍は総攻撃に出た。
 ナイト達がただやられていく中、彼はこの行動を読んでいたのだろうか。
「発動前に潰せなかったのは・・・私のミスなんですがね」
フォルテが魔術発動直後のチェレスタに襲い掛かる。
それに気付いた彼女は斧を取り、彼の大爪を受け止めた。
「不意打ちは慣れてます、戦場魔導師だと・・・どうしても慣れちゃうんですけどっ!」
言い終わると同時に、チェレスタは斧で上へ弾き飛ばす。
だがフォルテも受身を取り、着地の反動を活かし再び突っ込む。
一合、二合、彼は執拗にチェレスタを狙い続ける。
 さらに他の敵兵も中々撤退する事無く、砲撃を受けているのも無視して攻撃を続けてくる。
「まだ来るって言うの!?本当、しつこいわね!」
「まるで時間稼ぎしているみたい・・・まさかっ!」
ロザリィのぼやきに、ユグドラは嫌な予感がした。
「ミラノさん、急いでキリエさんのトコに向かってください!!」
突然の事にミラノはキョトンとするものの、ユグドラの瞳を見て命に従った。
 帝国は時間稼ぎをしている・・・しかし一体何の為に?
自分だったら、この状況で時間を稼いでその後どうする・・・?
「リーゲル地区、ボーニア街区方面の防御を固めて!戦力は南門に集中させます!」
矢継早に号令を飛ばすユグドラ、何かが起きる。


 南門から、紅き魔竜の軍旗が見えた。


 遂に帝国軍本隊がその姿を現したのだ。
それと同時に砲台に帝国軍暗殺部隊が急襲、ミラノと子分達は城内の雑魚に時間を取られていた。
「何か偉そうな方が来ましたわね〜」
南門から来た大部隊の中に、『焔帝』ガルカーサの姿を確認。
敵の親玉中の親玉、その威厳に兵達がじりじりと後退を始める。
「ガルカーサ・・・父上と母上のカタキ・・・ッ!」
ユグドラの目に憎悪が燃えた。
「あいつだけは・・・あいつだけは私が倒します・・・!」
そう言って、彼女は周りの制止も聞かずに飛び出してしまった。
「王女よ、流石に危険だ!」
キリエは暗殺部隊と交戦中な為、砲撃の援護は受けられない。
この状況で何人かが、魔力の集まりを感じた。
「姫、下がりなさいよ!ちょっと!」

「茨を振りて、我らの敵を討て!」
「させない・・・護人ハシャハティの言の葉よ!!」

 ユグドラ目掛け炸裂するアイヴィウィップ、放ったのはレネシー山脈から戻ってきたレシュテ。
それをチェレスタはシールドバリアで受け止める。
基礎の詠唱法である簡単詠唱(ブレイク・キャスト)で魔術を発動すると、ある程度の威力劣化は避けられない。
持続型の効果は一瞬・・・だが、その一瞬で充分だった。
「・・・失礼ッ」
彼女はユグドラを後方へやるとフォルテの矢を避け、レシュテの鎌を斧で受ける。
別方向からはアイギナが攻めて来ている為退く事は許さず、
又、相当の距離を突出してしまった為援軍の到着も必然的に遅れる。
チェレスタは、彼女を護り戦うしかなかった。
 数分戦って気付いたのだが、2人の狙いはユグドラではない。
執拗に自分ばかりを狙ってくる・・・何故?
レシュテは解る、フォルテに協力しているだけなのだろう。
「何故・・・何故君はそんなに僕を殺したがる、フォルテ!」
その問いにハッとするユグドラ、3人は魔術を織り交ぜながら刃と刃をぶつけ合う。
フォルテは退き、魔術の詠唱を始め答える。
「捨てられた事の辛さなど・・・アンタにはわからないでしょうさ!」
周囲に雷が走る、サンダーボルト発動の合図だ。
この距離ではユグドラにも当たってしまう・・・っ!

 その時だった。
「砲撃再開だーッ!」
ミラノが叫び、帝国軍への砲撃が再開された。
「おいおいおい、あの暗殺部隊が失敗したってのか!」
突然の事に帝国軍は動揺し、フォルテの魔術も中断してしまう。
「自分の得意分野で負けてみる・・・?」
その言葉の後、チェレスタはサンダーボルトを発動する。
雷は2人どころか、後ろに展開していた敵兵達をも巻き込み轟く。
「もらったぁーッ!」
「痴れ者が!!」
同時刻、デュランはバルドゥスを、ロズウェルがアイギナを撤退に追い込んだ。
 残るはガルカーサ本隊のみ。
「来い、抗って見せろ!!」
ガルカーサは自ら鎌を握り、騎竜を駆る。
帝国最高位の人でありながら、帝国最強の武人。
その周囲を固めるインペリアルナイトもまた、精鋭ばかり。
ぶつかる白鳳旗と紅竜旗。
両軍の力は同等・・・いや、少しだけ帝国の方が勝っていた。
「仇が、父上と母上の仇がそこにいるのに・・・っ!」
次第にユグドラが焦り始め、統率が取れず陣形が乱れ始める。
戦況が帝国に傾き始めた。


「行くぜ、サエザル!お前の出番だ!」


 一瞬の突風が吹きぬける。
城の中庭2階、砲台付近に居たはずのミラノ達が駆け下りてきたのだ。
「み、ミラノ様!砲台・・・結構上にあったのに・・・」
「あの位の高さなんざへでもねーな!行くぜお前ら!」
元々荒野地帯に居た彼らにとって、ちょっとした高低差は関係無い。
彼らの帰還、参戦で勢力図も引っくり返る。
「雑魚がいくら増えたところで!」
「ザコかどーかは戦ってから決めやがれ!」
ミラノの圏とガルカーサの鎌が火花を散らし、鋭い音を上げる。
インペリアルナイト達を騎士隊が押さえ込む。
各隊の動きが勝敗を分けた。
「悲しみを閉じ込める蒼氷の柩・・・」
「・・・青の息吹に抱かれ永遠に眠れ」

『永遠にして厳格なる女王システィーナの青、汝が息吹は全てを眠らせよう・・・』


「戦え、運命と残酷と疾る時代と!」


 各系統権威級魔導師達だからこそ出来る、複合術。
ウンディーネのそれよりも、ずっとずっと蒼く強かで、無慈悲な吹雪。
ダイヤモンドダストは王国の敵となる者、全てに襲い掛かる。
 ミラノはその一瞬をつき、ガルカーサに決定打を与えた。
「パルティナの死に損ないどもめ・・・うぐッ・・・!」
ガルカーサの負傷により大騒ぎとなる帝国軍。
それこそ、彼らの敗北。
撤退して行く紅の魔竜旗・・・。


 彼らの祖国は解放され、悲願は叶えられた・・・。


はずだった。