リヴェリオン、それは反逆


 王都パルティナを奪回し、歓声に沸く王国軍。
そんな中、ユグドラは独りやたらと周囲を見回していた。
彼女はチェレスタを見つけると、物凄い剣幕で問い詰める。
どうやらガルカーサを捜しているようだ。
「す、すみません・・・余りに激しい乱戦だったので見失・・・ユグドラ様?」
ここにはいない、それが確認出来るとユグドラは足早に何処かへ去っていった。
そんな彼女を不思議に思いながらも、チェレスタは部下に呼ばれ仕事に戻って行った。

「必ず見つけ出すわ、彼がやったことを・・・必ず後悔させてやるの・・・!」


 パルティナでの戦いに大敗を喫した帝国軍は、散り散りに撤退して行く。
その中には、南門からカローナ方面へと街道沿いを撤退して行く焔帝ガルカーサの姿もあった。
ユグドラはその姿を見つけると、復讐の激情に駆られて、聖剣を手に単独で追撃に向かってしまう。
ミラノたちはそれに気付き、城の守りをデュランに任せてユグドラの後を追っていくのだった。

「デュラン様!ユグドラ様・・・見てませんか?」
一通りの仕事を終えた後、チェレスタはユグドラの姿が見えない事に気が付いた。
それで一番近くにいたデュランに聞いてみたのだが、彼も知らないという。
2人を見て、ミラノが血相を変え走ってきた。
「大変だ、ユグドラのヤツ・・・ガルカーサを追って独りで出撃しやがった!!」
その場にいた誰もが驚愕の声を上げる。
「オレはアイツを追う!デュラン、チェレスタ、城の守りは任せたぜ!」
それだけ言うと、ミラノは踵を返して走り始めた。
「待って下さい!僕も行きます!」
チェレスタの声にミラノが立ち止まる。
彼女は、何となく気付いていたのにユグドラを止められなかった事に責任を感じていた。
さらにそこからロザリィ、ミステールが加わり追撃が始まった。

「折角王都まで案内して頂いたんですもの、助けなきゃ・・・ですわね」
「王女はあたしらの恩人なのよ・・・殺されてなるもんですか!」
「最初から一緒に居たんだ、今更見捨てられるかよ!」

「気付いてあげられなかった・・・ごめんなさい、今行きます!」



BF15 マキナ・ブリッジ




 それぞれが街道を繋ぐマキナ・ブリッジへ向かう途中、その上をキリエのアルが飛んでいた。
上には当然、キリエが乗っている。
気付いたミラノが声をかけた。
「キリエ、先に行ってヤツを止めてくれ!」
だが、彼女の反応は冷たい・・・本気でユグドラを嫌っているように。
「嫌だよ!何でウチが仇討ちの手伝いをしなきゃなんないのよ?仲間のことも省みないでひとりで勝手に戦争するなんて・・・」
そんなやつを助ける義理は持ち合わせてない、そう言って彼女は飛び去ってしまった。
キリエの空からによる制止は期待できない。
彼らはさらに追いかける速度を上げた。


「ミラノ・・・チェレスタ・・・みんな、逃げて・・・・・・」


 やっとの思いで辿り着いたマキナ・ブリッジ。
だが、そこにユグドラの姿は無く、橋も落とされていた。
「間に合わなかったの・・・?」
ロザリィのその言葉が虚しい。
ただ・・・呆気に取られる王国軍。
 不意に、チェレスタがマインドチェンジを発動する。
紅蓮の思念が強く残ってる・・・そう彼女は言うと、思念を読み始めた。
 途切れ途切れなその思念はユグドラの、
はっきりと残る思念はガルカーサの・・・ならば読む事を妨害しようとするのは誰の・・・?

― 卑怯・・・!は・・・なさい!
― 怒りに我を忘れるとは愚かな娘・・・だが、お前には利用価値がある
  我が帝国に栄光をもたらす崇高な使命がな・・・役に立ってもらうぞ
― 陛下、この娘を追って来・・・党が接・・・す!
― ・・・部隊を待機させてある、あの・・・追撃する連中を一兵残らず・・・できるだろう、我々は・・・!


  王国には面倒な娘も居たものですね・・・困った人だ。


「うわぁぁあ!」
突如、硝子が割れたような音と共に、チェレスタの右腕に大きな切り傷が入る。
その反動で彼女は後ろに吹っ飛ぶものの・・・それ所では無かった。
「後ろ・・・背後に帝国の誰かが居ます!戦闘準備を!」
叫び、傷付いた右腕で斧を、指揮を執る。
 間も無く王国軍の退路を塞ぐよう、帝国軍が現れた。
ロザリィが上空から敵指揮官の姿を伝える。
「帝国軍五頭竜将ネシア、ですわね・・・その風貌ですと」
ミステールがそこから指揮官が誰かを導き出す。
世間知らずな彼女は意外にも、軍事に関しては詳しかったのだ。
 彼らを倒さなければ撤退する事は不可能。
城内からの援軍は、伝える手段も無い為期待は出来ない。
そして後ろは落とされたマキナ・ブリッジに、底の見えない深い川が流れる。
正に、排水の陣だった。

 必死に抵抗し、戦い続ける王国軍だが、度重なる連戦でそろそろ限界だった。
全滅を憂う者、討ち死にを覚悟する者、諦めるなと励ます者・・・。
だが・・・それよりも先に、帝国軍が動いた。
「そろそろ潮時ですね・・・」
そう言ったのは敵指揮官、ネシア。
彼は本のページをめくりながら、詠唱を始める。
「我は神界に鍵を掛ける者なり・・・」
異常なまでの魔力の高まりに警戒する王国軍。
しかし、何かがおかしい・・・不安に駆られた帝国兵士が彼に声をかける。
直後、彼は自らの部下に今までの働きを労い、もう用は無いと言い放ったのだ。
慌てふためき、彼を止めようとするも魔力の収束は止まらない。
収束速度もまた異常で、辺りに突風が吹き始めた。

「私が楽にして差し上げましょう・・・禁忌を犯す者に天の裁きを」

 神聖系最高位攻撃魔術・リヴェリオンが発動する。
何故彼が、守護天使のみが発動できる魔術を使えるかはわからない。
だが、発動したことは確かなのだ。
断末魔と共に、彼を残し帝国兵は一人残らず文字通り消滅してしまった。
「・・・これで邪魔者は失せましたね」
同士討ちなのだろうか、それにまた今の術を使われたら・・・!
王国軍の警戒が強くなる。
「安心なさい、今の私にアレをもう一度使う力は残っていません」
さらに、彼はこの戦いで兵を失った責任は全て自分が負うとまで言う。
その真意がわからず、戸惑う王国軍。
「それより、急ぎなさい」
そんな彼らを無視し、ネシアは続ける。
ユグドラはもうじきカローナに幽閉され、用済みになれば命まで保障はできない。
その前にユグドラを助けろ、彼はそう言う。
「いいですね?しかと、申し伝えましたよ・・・」
最後にそれだけ言うと・・・ネシアは完全に消滅してしまった。
今のは夢か、それとも現実か・・・。
「と、とにかく一旦パルティナへ戻るぞ!」
ミラノの声で我に返る王国軍。
今あったことを報告する為、撤収し始めた。


 撤収を完了させ、今後について話し合う。
敵が残した情報では、ユグドラはカローナへ連れ去られたとの事。
「急げば、きっと間に合う・・・いや、間に合わせるんだ!」
落とされたマキナ・ブリッジを修復している暇は無い。
多少時間は掛かるものの、迂回する事は出来る。
さらに、同時にマキナ・ブリッジ修復を開始させて、撤退時に間に合わせるようにするのだ。
王国軍は集められるだけの兵力を集め、カローナへ向け進撃を開始した。
「ユグドラ・・・待ってろよ!」



 立ち上がった瞬間、チェレスタは眩暈にも似た感覚を覚えた。
疲れているのだろうか・・・だが休んでいる暇は無い。
皆には、黙っている事にした。