彼女の為にと燃える闘志


マキナ・ブリッジからの生還を果たしパルティナで態勢を立て直した王国軍は、
ユグドラ救出の為ガルカーサが立て篭っているというカローナ城へと出撃する。
一方、王国軍襲来の知らせを聞いた帝国軍は宮廷魔術師ユーディの砲撃を後ろ盾に、
インザーギ傭兵部隊が城門前に展開してこれを迎え撃つのだった。



Chapter3 囚われのユグドラ

BF16 カローナ郊外




 ユグドラを追い出撃した王国軍の元に、斥候が情報を持ち帰ってきた。
どうやら、この先のカローナ城にて彼女を見かけた人が居るらしい。
だが情報はそれだけで、他に得られたものは無い。
もっと詳しい情報が欲しい所ではあるが、贅沢も言っていられない。
「デュラン様、只今戻りました!」
そこに、敵陣営の偵察に行ったチェレスタが戻ってきた。
 彼女の報告では、城門前をインザーギ傭兵部隊が、宮廷魔術師達が砲台を制御しているという。
城塞都市と呼ばれるだけあり守りは堅い・・・篭城されるわけには行かない。

 早めに決着をつける為、王国軍は攻めに出た。
「みんな、気をつけろよ!のんびりしてると砲撃を食らっちまうからな!」
そう言い終えるが先か、既に準備は完了していたのだろうか、帝国軍の砲撃が始まった。
「そらッ!最初に切り刻まれたいやつはどいつだ!」
援護を受け、果敢に攻めてくるインザーギ。
戦闘開始早々、王国軍は窮地に立たされてしまった。
 けれど、砲撃という名のワンパターンを黙って受け続けている彼等ではない。
砲撃を受けるであろう地点を予測し、魔導隊が次々にシールドバリアを発動させる。
「あらまぁ・・・人間はお肉やお野菜とは違いますのよ?」
さらに、いつもは隊の中列に居るミステールが率先して前へ出てきたのだ。
普段前列を務めるミラノとデュランは、彼女が居た中列で戦っている。
それを援護するべく今度はロザリィがメイクドールを発動、そこらの瓦礫からゴーレムを作り出した。
王国軍の窮地は、一気に好機へと塗り替えられて行く。
 この状況を上から見ていたユーディは焦り始める。
「なんてこと・・・王女の居ない王国軍なんてただの雑魚だったじゃない!」
彼女はオーランド西部での事を思い出す。
チェレスタが王国軍と合流する前、彼女は自身の部隊のみでデュラン率いる王国第三騎士団を壊滅寸前まで追い詰めた。
だが、ユグドラの登場により返り討ちにされてしまったのだ。
それ以来彼女の士気能力の高さは評価している、だからこそ彼女が居ない今なら・・・と思ったのだ。
油断が予想外の出来事を招き、対処も出来なくなっていく。
「敵指揮官は誰なの!?ここまでアイツらを統率できる奴がいるなんて・・・騎士団の団長?そんなまさか・・・」
「ゆ、ユーディ様!その指揮官ですが・・・」
部下の報告を聞いてから、該当する場所を見・・・驚いた。


「敵砲撃命中精度減少、魔導隊は前列の援護を!騎士隊、シーフ隊は次の手を敵傭兵部隊に悟らせないよう注意して下さい!」


 王国軍の布陣ほぼ中央に、全体指揮を執るチェレスタの姿があった。
彼女の的確な指示は、次第に・・・されど確実に帝国軍を追い詰める。
帝国にとって一部隊の将、それも下の方に位置しているであろう人間が指揮を執っているのが信じられなかった。
しかし、彼女のユグドラに次ぐ統率力に指揮能力、そして何より彼女の人柄を誰もが信頼している。
立場なんて今は関係無い、ユグドラを助けたい・・・その一心で王国軍は動いているのだ。
 だとしても、ユーディは納得が出来ない。
前線に立つインザーギも又、同様の疑問と違和感を抱いていた。

チェレスタが居るであろう位置とは”別の場所から声がする”・・・?

 日が傾き、時刻が夕方へと傾いた時。
その疑問は解消される事となった。
「行くぞニーチェ!」
「どこ見てるんですか!」
東の水辺からウンディーネ隊が、西の草原からは魔導隊の一部が出現したのだ。
ウンディーネ隊の指揮を纏めるのはイシーヌ、それを援護するニーチェ。
魔導隊の先導を務めるのは、チェレスタ。
チェレスタが2人いる? 戸惑うインザーギをチェレスタの大斧が襲う。
「なッ・・・オマエ、向こうにいたんじゃ・・・!」
「最初から僕は伏兵でした、ミステール様が突撃した辺りから・・・ですけど」
鍔迫り合いに持ち込み彼女は答える、同時に中央に居たはずの彼女が消えた。


詠唱文変更による、ミラージュの系統変化。


 低下系・心理系を扱うウォーロックならではの魔術応用。
マインドチェンジを低下系から心理系に変えて運用を変えるように、
ミラージュも低下系から心理系へと系統を変え、地形ではなく人の幻影を作る。
さらに今は夕方、この程度の事・・・チェレスタには造作も無かった。
 態勢を変えぬまま、目線で彼女はデュランへ合図を送る。
「今こそ好機!全軍突撃!!」
鬨を上げ猛攻を掛ける王国軍に、インザーギの傭兵部隊は為す術も無かった。
又彼も、チェレスタとイシーヌを同時に相手にしている所為でロクに部隊を纏める事も出来ない。
「凍っちゃえーー!!」
最後、ニーチェの無計画かつ気紛れなダイヤモンドダストにより、彼等は撤退に追い込まれた。

 ユーディ隊はそれを確認する。
「インザーギ隊が蹴散らされたわ!門を閉ざすのよ、皆急いで!」
徐々に閉じられる正門、危険と判断して王国群は後退する。
だが、チェレスタはインザーギとの勝負で少し深入りしていた。
「・・・あ・・・っれぇ?」
完全に閉じた門、彼女は王国軍と分断され独り城内に残ってしまった。
門は厚く、外の仲間と連絡を取ることが出来ない。
それ所か、好機とばかりに襲ってくる帝国軍。
あまり事を荒立てると進軍の邪魔になりかねない・・・とにかく今は逃げなくては。
 喧騒が遠くに聞こえてきた頃、急に話しかけてくるものが居た。
姿から隠密だと判断できるが、見た事が無い。
「・・・貴女は解放軍の方ですね、先の戦いで指揮を執られて居た、私は敵ではありません」
その言葉の通り彼女は敵ではないのだろう、帝国の紋章は何処にも見当たらない。
だが王国軍では見ない顔だ・・・しかし、チェレスタは彼女を何処かで見た気がした。
されど、すぐに出てこないなら考えていても仕方が無い。
「夜、この城の裏門が開きます・・・そこに変装した王国軍の誰かが来るはずです
さらに隠密は続ける。
彼が入ってしばらくして、王国軍が内部へと侵入するだろう。
それを利用し、変装した者が牢塔付近の兵をそちらへと扇動する。
その者と合流して牢塔最奥を目指せ。
「確かに伝えました、それでは・・・」
隠密は何処かへと去っていった、そしてチェレスタはようやく思い出す。
「今の人、確かあの人の・・・」
今は敵であれ、昔は親しかった彼・・・一体何が目的なのだろうか。
信じて先に進めばそれも解るのだろうか?
とにかく、彼女は夜を待った。

 それからどれ程時間が経ったのだろう、外が闇に沈んでいた。
微かだが、何処かの門が開いたような音もする。
そして、慌てて走る帝国兵の姿を見・・・間髪入れずに鬨が上がった。
迎撃の為に別の帝国兵が走り去るのを確認すると、チェレスタは牢塔方面へ走った。
そこに独り、最初に走っていった帝国兵・・・変装した誰かの姿があった。
「・・・ミラノ様!」
「チェレスタ、無事だったか!」
2人は無事だったことと再会を喜び、すぐさま現状の確認をする。
ミラノ達の方にも、怪しげな隠密が情報をもたらしたらしい。
さらに今回の作戦を告げたのもまたその隠密だと。
 罠かもしれないが、彼等立ち止まっている余裕は無い。
少しでも良いから情報が欲しい、ユグドラを助けるために。


2人は牢塔へ向け、走り出した。