ただ彼女の姿求め
帝国兵に変装したミラノは敵の目をかいくぐりチェレスタと合流する事に成功、
ユグドラが囚われているとの噂の牢塔に潜入した。
牢塔内には無数の牢室が設けられている。
この一体何処にユグロラが囚われているのだろうか。
それとも・・・本当に彼女はここに囚われているのだろうか。
BF17 牢塔内部
ミラノとチェレスタ、牢塔内部へと侵入した2人はとにかく前へ進む。
通り過ぎる牢塔を1つ1つ、くまなく調べるもユグドラの痕跡はない。
試しに名前を叫んだところで反応も無い。
ただ、時間だけが無情に過ぎて行く。
そして過ぎて行く時間は2人を次第に焦らせ、苛立たせる。
そして途中、道は二手に分かれていた。
右と左、果たしてユグドラはどちらに?
多少危険ではあるものの、時間が無い・・・ミラノは右、チェレスタは左の道を進んだ。
チェレスタは、マインドチェンジで牢の中を片っ端から調べていく。
こういった場所は良くも悪くも思念が残りやすい為に、読む事もまた容易なのだ。
だが聞こえてくるのは無念の声ばかり、それが辛かった。
ある程度進むと、彼女は奥からそれとは別の思念を感じ始める。
彼は無事なのだろうか、彼に会いたい、ここから出たい!
進むたびにそれは強くなり、最奥に来たところで最も強く感じるようになった。
「待て!そこのお前!」
急に声が聞こえ、チェレスタの動きが止まる。
「貴様、チェレスタ・・・?何故お前がここにいる!」
「・・・アイギナ、厄介な見張りですね」
最奥の牢の前に、見張りとしてアイギナが立っていたのだ。
甲冑の色はフラム穀倉地帯で遭遇した時と同じ黒の甲冑。
フィールドは縦に長く、武器の特性からアイギナの方が若干有利・・・。
そう考えたチェレスタは大斧ではなく、細剣を構える。
さらに武器の相性的にも大斧では不利だったし、一対一だと細剣の方が小回りが利いて何かと便利なのだ。
―この奥にユグドラ様が居るかもしれない!
―ここの人物を奪われる訳にはいかない!
相手を見据え、剣戟の音が牢塔内部に響き渡った。
一方ミラノは、右側の最奥の牢に辿り着いた。
「いないぞ・・・ここじゃなかったのか?」
彼は牢塔右側をくまなく探したものの、ユグドラは何処にも居なかった。
そろそろ変装も必要ないか、と鎧を脱ぎ変装を解く。
「ミラノ殿!姫様は!?」
「ここにはいねーぞ、城内かもしれねーな」
外の敵を片付けてきたのだろう、デュランが駆けて来る。
ミラノも叫び返し、大急ぎで来た道を戻り始めた。
チェレスタとアイギナの戦いは中々決着が着かなかった。
せめて隙でも見つけられれば魔術が撃てるのに、チェレスタはそんな事を考え始める。
「そこだッ!!」
それが彼女自身と隙となる、アイギナがそれを見逃すはずはない。
アイギナの細剣は真っ直ぐにチェレスタの心臓を狙う。
「させるものか!」
しかし、直前で誰かの槍が細剣を弾いた。
蒼きウンディーネ、イシーヌだった。
「全く情けない・・・さっきまで全体指揮を執っていた人間と同一人物か、味方ながら疑いたくなる」
そう言いながら、彼女はアイギナの相手を交代する。
それは紛れもないチャンス、無駄にしない!
「堕天のエイミアの言の葉・・・光を奪われ翼を折られた天使・・・」
ギリギリの所で退くイシーヌ、突然の事にアイギナは対応が遅れる。
「エイミアの呪い、我らの敵に!」
発動したグラヴィティカオスは、的確にアイギナへと命中する。
神聖を武器とする者、暗黒を武器とする者には逃げられぬ弱点が付き纏う。
ヴァルキリーは神聖をも武器とするが故、どうしても暗黒に弱くなってしまうのだ。
「くぅっ・・・不覚!」
彼女は撤退せざるを得なかった。
最後まで残った牢を見ると、まだ人が居るのか外付けで鍵が掛かっている。
「助けに来たぞ王女よ、そこにいるのだろう?」
イシーヌが声を掛けると、ユグドラとは別の人物の声が返ってきた。
女性の声で、彼女は自分は王女では無いという。
結局、牢塔の左側にはユグドラは居なかった、居たのはここの中に居る女性だけ。
このまま閉じ込めておくのも忍びないと思った2人は、彼女を救出することにした。
「でも鍵が無いですね・・・イシーヌ様、中の貴女、少し離れてて下さい」
そう言うと、チェレスタは周囲の広さを確認する。
これだけ狭いと流石に大斧で柵を破壊するのは危険すぎる・・・ならば。
「・・・たぁッ!!」
彼女は踵落しで鍵を叩き割ってしまった。
呆然とするイシーヌをよそに、チェレスタは大丈夫かと声をかけた。
「ありがとうございます、私はフローネと申します」
フローネと名乗った女性は2人が王国軍であることを確認する。
2人は何故、彼女がここに捕らえられていたかを聞いた。
「私はラッセルの婚約者です、彼も私も、本当は王国民なのです」
フローネが言うには、魔剣士ラッセル元々王国民で、帝国との戦いで捕虜にされてしまったのだ。
彼の腕を惜しんだガルカーサは彼に部下になるよう要求したが、ラッセルは拒み続けましたと。
そこでガルカーサは婚約者の彼女を人質にし、ラッセルは帝国の軍門に下らざるを得なくなったのだ・・・と。
続けてフローネは、ここではユグドラを見かけていないと言った。
これでユグドラ捜しはまた振り出しに戻ってしまった。
仲間と合流するため、2人はフローネを連れて道を戻り始めた。
「急げ!敵の増援が来る前に姫様を探し出すんだ!」
全員が帰還した後、デュランは指示を出しユグドラ捜索を続行させていた。
ミラノとチェレスタが、それぞれユグドラは居なかった事を報告する。
「それで、この女性は?」
チェレスタはフローネを紹介し、此処に捕らえられていた事、彼女がラッセルの婚約者である事、
そしてラッセルが帝国に下った経緯を話した。
彼が元々王国の人間であった事には、誰もが驚いていた。
「だがこうして彼女は救出できた、ヤツにはもう帝国に加担する理由が無くなる」
話せば王国へ戻ってくるのではないか?
イシーヌが提案する。
同時にデュランが、この辺りにはユグドラは居ないと言い戻ってきた。
「そうなると・・・後はカローナ城周辺しか無いですね」
「ならば敵はカローナ城門前、アムトーラム広場に展開するだろうな」
次の目標はカローナ城。
早く、一刻も早くユグドラを救出せねば・・・。
そして1人助け、目の前にもう1人助けられる人がいる。
王国軍はアムトーラム広場へと急いだ。
彼が出てくることを願って。