再会は幸せの為にこそあれ。
牢塔の中にユグドラの姿は無かった・・・。
彼女らを嘲笑うように時間だけが刻一刻と過ぎてい。
王国軍はユグドラ捜索の攻略目標を牢塔からガルカーサの立てこもるカローナ城へと向ける。
カローナ城に行くには魔剣士ラッセルとインザーギ傭兵部隊が守りを固める、
アムトーラム広場を通らなければならないのだった。
BF18 アムトーラム広場
出来る事ならば、彼らが到着する前にアムトーラム広場を突破したかった。
だが、牢塔内部でチェレスタとイシーヌが派手に暴れた所為か情報の回りは早く、
城門は封鎖され、門前には魔剣士ラッセル、傭兵隊長インザーギの2人が守りを固めていた。
「チッ!やっぱり来やがったか!」
大体予想してはいたものの、実力のあるフェンサー・・・それも2人居るとなると苦戦は免れない。
しかしフローネが無事と知れば、ラッセルは帝国に加担する必要が無くなる。
そこでチェレスタは、自らを囮として2人を引きつける事を提案した。
「この中では多分、2人との相性は僕が最悪です・・・だからこそ、油断を、隙を誘えます」
2人の注目を彼女に逸らせ、その間に粗方の敵を撃破。
そこへラッセルにフローネの無事を知らせて裏切らせようというのだ。
「チェレスタ・・・大丈夫なの?」
ニーチェは心配そうに、彼女へ声をかける。
常に自分を追い詰めるような戦い方をするチェレスタが、いつか何処かへ行ってしまいそうで・・・。
けれども、彼女は笑って大丈夫と言って見せた。
「皆の事、信じてるから・・・絶対死んだりなんて出来ないよ」
鬨をつくり鬨を合わせ、両軍の衝突が始まった。
弓兵隊の援護を受けながら、騎士隊に近衛隊が突撃をかける。
今回の戦闘指揮をミラノに任せ、チェレスタは小柄な体格を活かし敵をすり抜ける。
魔導隊の魔術に隠れながら、彼女は瞬く間に2人のもとへ辿り着いた。
その右手の大斧で奇襲をかける。
「・・・覚悟ッ!」
だが、今回のチェレスタの目的は2人を引きつけ時間を稼ぐ事。
当てるつもりはなく、また綺麗に攻撃はかわされた。
軌跡は武器である半月斧(クレセント・アクス)と同じ形の半月を描く。
「どこ狙ってんだ?やる気が無いなら消えちまいな!」
また、その事を看破していたらしいインザーギが彼女を狙い始める・・・掛かった!
チェレスタは彼の攻撃を受け流し、それなりに反撃する。
そんな彼女の行動を、ラッセルは不審に思った。
密偵が上手く働いてくれたのだろうか・・・いや、もし失敗していたら・・・。
彼は戦う事を決めた、もしそれで散ろうとも。
「かわしてみせろッ!」
ラッセルの剣とインザーギの剣、2つの刃がチェレスタを襲う。
だがここまでは作戦通り、2人が気付かぬ内に門前の敵兵は徐々に減っていた。
後は、フローネの無事を確認させるだけ・・・!
しかしラッセルは尚も苛烈に、チェレスタを追い詰める。
「へぇ、こっちじゃ『紫月の狂魔』って呼ばれる程の君が魔術を使わないなんてね」
まずい・・・このままでは時間を稼いでいる事がばれてしまう。
不名誉な通り名に反論する余裕が無いくらい、彼女は必死だった。
それは、自らがの提案した事に責任が取れなくなる己の不甲斐無さへの悔しさだろうか?
それとも、自分が信頼する人達を裏切ってしまうかも知れないという事への恐怖だろうか?
いや・・・・・・、
今尚苦しんでいる彼を・・・同胞に刃を向け続ける彼を助けられなくなる事への不安だろうか?
悩みは刃を曇らせ、己の感覚をも鈍らせる。
「残念だったなァ・・・そこだ!」
振り向きざま、インザーギの剣が目の前に迫った。
今ならまだ避けられる、だが後ろには・・・避ければラッセルに当たってしまう。
それだけは絶対に駄目だ!!
チェレスタは叫び、武器持たぬ左腕を傷つけながらも剣を止めた。
刃は彼女の左腕を傷つけ、左腹を裂いたが・・・それだけ。
「何故だ・・・何故私を助ける!」
驚愕したラッセルは思わず叫ぶ、チェレスタの行動にインザーギの動きも止まっていた。
それを聞いた彼女は笑い、顔を上げる。
「あれは・・・!」
遠く、王国兵に護られたフローネの姿があった。
「そういう事、ですよ・・・ラッセル様」
チェレスタはインザーギの剣を弾き飛ばし、大斧から細剣へと持ち替える。
そして傷を物ともせず、一気に彼を追い詰めて行く。
「そうか・・・もう帝国に加担する必要は無い!王国軍の戦士!このラッセル、助太刀する!」
背後、彼の声の後に相当な量の鬨が上がる。
元々帝国軍だった者達の間には動揺が広がり、蹴散らされていく。
「終止符の先には何が在ると思いますか?」
刹那。
戦場では一瞬の隙が命取りに、そして大量の者の灯をも消していく。
例外など無く・・・また今回も・・・。
「ちくしょう・・・死んでたまるか・・・よ・・・!」
チェレスタはその一瞬を、刹那を見逃さなかった。
「傭兵とか賞金稼ぎとか・・・そういう適当な人達、嫌いなんですよね・・・」
細剣の血を払い、鞘へと戻した。
チェレスタの囮や王国軍の善戦、そしてラッセルの助力によりアムトーラム広場は制圧した。
兵士がデュランに敵軍殲滅の報告へと来る。
そして王行軍はこのままカローナ城を目指す事となった。
「フローネ・・・すまない・・・苦労をかけたね」
「無事で良かった・・・お帰りなさい・・・ラッセル」
フローネはラッセルへ、王国軍が自分を救出してくれた事を話した。
その間、彼には『彼女』の視線が突き刺さっていた。
「敵が味方に・・・か、私とて気持ちはわからなくも無いが、少しは抑えたらどうだ・・・ロザリィ」
イシーヌは半ば呆れ掛けにロザリィを宥める。
それでも彼女の敵意は治まらない。
視線を気にしつつも、ラッセルが話す、フローネを救ってくれた事への感謝と・・・
「今までのことを許してくれとは言わない、だが・・・もし間に合うのなら、私の剣をパルティナのために使って欲しい」
改めて、王国の為に戦う決意を。
それを聞いたロザリィは、大きく溜息をついたものの。
「アタシだってそんな子供じゃないし・・・そうね、これからの態度次第かしら?」
答えをはぐらかすように聞こえても、彼女は彼女なりに彼を受け入れようとしていた。
進軍準備の際、ミラノはチェレスタの傷が心配だった。
傷はかなりの深手だったようにも見えるのだが・・・当の本人はぴんぴんしている。
無理しているのか、回復力が凄まじいのか。
もし後者だったのなら・・・。
彼はそこで考えることを止めた、聞けど返って来る言葉は「大丈夫」の一点張り。
ならば信じる他には、何も無いのだから。
・・・何時か本当の事が解るまで。