激戦のカローナ
アムトーラム広場を通り抜けたカローナ中心部では、
帝国軍が既に守りを固め、王国軍を迎え撃つ準備をしていた。
前線拠点となる中枢都市ロザミールに戦乙女アイギナを配置、
後方の砲台に宮廷魔術師ユーディ、そしてカローナ城には焔帝ガルカーサ自らが布陣した。
アムトーラム広場を突破した彼女らは、ユグドラを取り戻すべくカローナ城へと迫る。
BF19 カローナ城
アムトーラム広場を突破し、カローナ城下へと侵入した王国軍。
ユグドラが捕らえられて居るであろうカローナ城は未だ遠く、
その足掛かりにまずは、中枢都市ロザミールの解放へと向かう。
「ロザミールを守るのは戦乙女アイギナ・・・彼女さえ突破出来れば城内へ攻め込めます!」
チェレスタが次々に指示を飛ばす。
ユグドラの様に上手くは出来なくとも、彼女の代わりとまで行かなくても、ただ必死に。
今回のアイギナは黒い甲冑を付けているとの報告を聞く。
アイギナの甲冑が赤い時は自ら攻め込み、黒い時はカウンターを得意としているらしい。
魔導隊を攻撃の軸に据え、騎士隊や近衛隊を補助に留める。
シーフ隊やハンター、アサシン隊に奇襲を掛けさせ動揺を誘う・・・そこから一気に畳み掛けるのだ。
「こちらの手が読まれているだと・・・?馬鹿な、一体誰が!」
そしてアイギナはユーディの報告を思い出す。
カローナ郊外での戦い、指揮を執っていたのは・・・チェレスタだったと。
これが何を意味するかはまだわからない、だが彼女は少なくとも・・・赤と黒の違いを知っていた。
報告する事が増えたな、そう思いつつもチェレスタは凛とした態度を崩さない。
眼を逸らせば途端に殺られる、それが戦場。
「帝国軍、姫様は返してもらう!」
敵の動揺に乗じてデュランが突撃し、そこにラッセル、ミステールが続く。
王国軍側にラッセルの姿を見た帝国軍兵士は驚愕し、総崩れ状態となっていった。
「貴様・・・ラッセル!裏切ったのか!」
「悪いな、私を縛るものはもう、何もないんだ」
細剣と大剣がぶつかる、剣戟は鋭く重く響き渡った。
「この裏切り者が!死してその罪を悔いるがいい!」
激情したアイギナが高く飛ぶ、ヴァルキリー達の使う奥義、レボリューションの合図だ。
「裏切り者か・・・王国を裏切り帝国に付いた事が私にとっては何より辛かったさ」
残念・・・、誰かがそう言った気がしたが、彼女には聞こえない。
「悲劇の中に出でたる聖杖の賢者・・・その杖、我らを護る盾とならん」
冷静な男の声と共に神聖系防御魔術・シールドバリアが発動した。
当然アイギナのレボリューションも防がれる。
「少し前から魔導師には防御命令が出ていた・・・まさか気付いていなかったとはな」
暗黒の矢で追撃した後、ロズウェルは尚も冷静に話す。
そう、ラッセルとアイギナがぶつかる少し前から・・・魔導隊全体に防御命令が出ていたのだ。
前線組が突っ込んでこられたのも、そういう理由だったのだ。
「これで終わりさ・・・かわせるか!」
隙だらけとなったアイギナにラッセルの一撃が決まり、ロザミールは王国軍の手により解放された。
ロザミールを解放し、王国軍はすぐさまカローナ城へ向け進撃する。
だが、途中にはユーディ隊が上空から砲撃を仕掛けてきている。
こちらが下に居る所為で、夜だろうと篝火目掛けて撃てば砲撃は当たってしまう。
手詰まったか・・・そう思った時。
「あたしが行くわよ、ロズウェル、あんたもついでに一緒に行くわよ」
ロザリィが砲台の制圧に名乗り出たのだ、一部隊巻き込んで。
今は夜、上空からと転移での奇襲は確かに効果的だ。
チェレスタ達は砲台の制圧を2人に任せ、カローナ城内へと進入した。
城内での攻防戦は、思ったよりも激しいものとなった。
だが、それだからこそユグドラはここに居る!そう確信した。
さらに彼も居るとなっては・・・決定的だ。
「お前ら、ぜってー通すなよ!陛下の下に近づけさせるな!」
目の前に立ち塞がったのはレシュテの部隊、だがこんな所で足止めされる訳には・・・。
「デュラン様、ミラノ様、ラッセル様は先へ行ってください!僕らとミステール様、ウンディーネ隊でここをどうにかします!」
チェレスタはとっさの思いつきで指示を出す、いくら相手がレシュテでも・・・三部隊位なら突破できるはず。
一番厄介なレシュテ本人の動きを封じる為、指示と同時に彼女は突っ込んで行く。
「紫系統のお前が灰の俺に勝てると思うな!」
「全てにおいて中途半端な君に言われたくないっ!」
鈍い金属音が響き、2人は戦闘状態に入る。
レシュテは今も尚指揮を執っているのがチェレスタと思い込んでいるらしく、嫌に食いついてくる。
だが、それが仇となった。
「皆、今だ!」
号令を掛けたのは別の人間・・・イシーヌだ。
その合図と共に、デュラン、ミラノ、ラッセルの部隊は無事にこの地帯を突破する。
「思い込みはダメだと思いますけど・・・ニーチェ!」
レシュテの鎌を弾き、チェレスタは叫ぶ。
「ニーチェ、女王様の分まで頑張るから・・・いっくよー!」
直後、ダイヤモンドダストが発動する、彼女の右手には女王の・・・悠久のグングニルがあった。
南パルティナの戦いが終わってすぐの事、イシーヌはこの形見の槍をどうするか悩んでいた。
自分は常に女王に付き従い、槍と盾となる者・・・自分が振るう訳にはいかなかった。
そこで、この槍をニーチェに託したのだ。
哀しい決意を秘めながらも、明るく振舞い戦う幼い少女に・・・。
ニーチェもまた、この槍を渡され悩んでいた。
本当に自分なんかが・・・この槍を使っても良いのだろうか。
だが、先の戦いでチェレスタが独り取り残された時に、彼女はある事を思った。
そしてニーチェは、彼女の助けになりたいが為、この槍を使う事を決意したのだ。
イシーヌにこの事を話し、勧められたからもある。
しかし、今の彼女の中にあるのは・・・
チェレスタの、友人の力になりたい!
ただ、それだけ。
思いの力は吹雪をさらに荒れさせ、狂わせる。
「レ、レシュテ様!このままでは・・・!」
チェレスタはレシュテへ話しかける、先の揚げ足を取るかのように。
「確かに紫系統の魔導師は、強大な力を持つが故全系統の魔術に弱い・・・けど」
君の敗因は己が魔力が蒼系統に弱いと言うのを忘れていたこと。
チェレスタやフォルテのように、双子として生まれた者を例外とするが、
基本魔導師は得意系統により白・蒼・灰・紫の4つに分けられる。
白は蒼と灰に強く、蒼と紫に弱い。
蒼は白と灰に強く、白と紫に弱い。
紫は白と蒼に強く、灰に弱い。
灰は紫に強く、白と蒼に弱い。
そしてダイヤモンドダストが分類される冷気系は・・・蒼の系統。
「まだ続けるって言うなら別に止めはしないけど?」
王国軍の背後から、追いついた魔導隊が姿を現した。
外からの砲撃の音も聞こえない・・・砲台を制圧したのだ。
そうなると、外に残してきた王国軍の残りの部隊も流れ込んでくる・・・勝敗は明白だった。
さらに奥から勝鬨が上がる・・・帝国軍の敗北だった。
「チッ・・・退くぞ!」
レシュテ達が撤退するのを確認し、チェレスタ達はデュラン達の元へ向かった。
兵達が慌てて城内を必死に駆けずり回る、ユグドラを探して。
チェレスタ達がミラノから聞いたのは、信じがたい事実であった。
ここに居たガルカーサは影武者で、うまく敵の時間稼ぎに引っかかってしまったというのだ。
戻ってくる兵の報告も、絶望的なものばかりだ。
自分の未熟さに嫌気が差し、チェレスタは手を強く握る・・・爪が食い込み、血が床へと落ちた。
「ダメですわよ〜?折角女の子なのに・・・もっと自分を大事にしなくちゃ」
それを見たミステールは、彼女の行動を咎めた。
チェレスタ自身わかってはいる、無茶をすれば必ずユグドラに止められていたから・・・だからこそやりきれなかった。
「おい、みんな!ちょっと来てくれ!」
そんな中、ミラノが全員を集めた。
どうやらユグドラを見た、という人物から話を聞いてきたらしい。
その人曰く、戦の真っ最中に馬車が一台城を出て行き、その馬車にはユグドラと思しき人物が乗っていたと。
馬車は此処から東の方角へと向かって行ったらしい。
「東だと?ここから東といえば死地、ロスト・アリエスではないか!」
ロズウェルが声を上げる、勘のいい人間はその先に何があるか、そこから何が起こるか気付いていた。
東の情勢を全く知らないミラノは聞き返す。
「あそこには贖罪の門がある、その奥には処刑地が・・・」
「では・・・ヤツらはそこで王女を処刑しようというのか!?」
デュランが答え、イシーヌはそれに反応してしまう。
雰囲気が一気に切羽詰ったものへと変わっていく。
「あの、ロスト・アリエスに向かうのですか?」
そんな王国軍の様子を見て、フローネが声を掛ける・・・マルドーゥクの森を抜けねばならないと。
ミラノは厄介な場所なのかと、彼女に聞き返す。
その問いには彼女の代わりにラッセルが答えた。
「深い森なんだ、きっときつい行軍になるだろう」
だが、きつい行軍はレネシー越えで慣れている。
ユグドラの為ならば、王国軍に怖いものなど無かった。
ラッセルはフローネに待っていてくれと告げる、今度こそ皆が安心して暮らせる国を作ると。
彼女らは進む、主を取り戻すため。
例えそれがどれだけきついものとなろうと、どれだけの試練が襲い掛かろうと。