不思議な不思議な迷い人
激戦の末、王国軍はカローナ城を陥落させた。
だが、倒した焔帝ガルカーサは偽者と判明し、そこにはユグドラの姿も無かった。
城内に居た者の情報では、既にユグドラは遥か東の地・・・ロスト・アリエスに移送されたのだという。
その足取りを追って王国軍は東方遠征を開始、やがて深き森マルドゥークへと足を踏み入れるのである。
BF20 マルドゥーク南西部
ユグドラを追いかけ、王国軍はマルドゥークの森へと入った。
かなり深い森ではあるものの、ここを抜ければ目的地・・・ロスト・アリエスは目の前。
そこでミラノが皆を止める。
「・・・どうする?この先に結構中数の帝国兵が待機してるみたいだぜ」
確かに、何処に居るかは分からないが・・・確かに居る。
詳しい数もやはり分からないものの、相当数が居るのだけは確か。
「・・・何故そのようなことを?」
デュランの問いは尤もらしい物だが、自分には空にも目がある・・・とミラノは言った。
そこでチェレスタはキリエの存在を思い出した。
彼女なら・・・ミラノの為なら偵察くらい喜んでしそうだな、と。
「ならば、今ここで戦力を消耗するのは得策では無さそうだな・・・」
ロズウェルの言葉に誰もが頷いた。
帝国軍を迂回し、やり過ごしながら進軍する。
困難ではあるが・・・それしか無かった。
物音を立てぬよう、慎重に・・・かつ迅速に歩を進めて行く。
この様な森林地帯、騒げば1発で敵に見つかる可能性だってあった。
アクシデントの恐怖と戦いながら、ただ進む。
そんな時だった。
「わっ!!見られた!?」
チェレスタの魔力に反応し、1人の人物が姿を現したのだ。
出てきたのは15歳程の少女で、その出で立ちは魔女そのもの。
この場に似つかわしくない、髪の色と合わせたピンク系で統一された格好をしていた。
「・・・誰、森の住人?それとも・・・帝国の人?」
思わず、チェレスタは少女に向かい武器を向ける。
魔力の系統は灰・・・雷撃・地形系を得意とする魔導師だろうか。
「あっ・・・ははは、早く隠れなくちゃ!」
そう言うと、少女は魔術の詠唱を始めた。
詠唱文から地形系隠蔽術だと判断する、帝国の紋章こそ見当らぬが・・・逃がさない方が良いだろう。
チェレスタが詠唱の阻止に入ろうとした瞬間、後続のニーチェが彼女に追いついた。
「わぁお!らっきー♪ウンディーネがネギ背負ってやって来た来た来た♪」
と、ニーチェの姿を見るなり、少女は目の色を変え杖を構え直した。
さらに彼女に向かい、自分のモノになれとまで言っているのだ。
突然の事に戸惑うニーチェに対し、彼女は痺れを切らしたのか、いきなり名乗り始めた。
思えば長い道のりで、ウンディーネ族は転生を繰り返し決して老いることがない・・・。
自分ははその長寿の源を追い求める者・・・と。
「ミスティックウィッチのパメラ様とはあたしのことよ!以後ヨロシク!」
その場に居た王国軍の誰もが呆然とした。
こんな緊迫した状況で、ここまで堂々と名乗られるなんて・・・。
ミスティックウィッチは灰系統魔導師の女性が名乗る職業、確かに読みは間違っていなかった。
だが・・・ここまで破天荒だと、この戦いに実は関係無い人物ではないかと思ってしまう。
さらにぶっ飛んだ事に、彼女は偶然ここに迷い込んだのだと言う。
「まぁ、戦場のド真ん中でボコられるのもヤだし・・・それじゃあ、次会った時こそヨロシク♪」
・・・そうこうしている内に、彼女は術を完成させて森の奥へと隠れてしまった。
一体、今の出来事はなんだったのだろうか・・・。
どうやら帝国軍には発見されていないらしい。
我に返った王国軍は、先を目指して進軍を再開した。
ある程度進んだ辺りで、先行していたミステールとミラノがデュランを呼び止めた。
「見てくださいな・・・こちらの方が敵さんに見つからずに進めそうですわよ?」
「どうする、方向としては問題無いんだが・・・」
2人が発見したのは、森の奥へと続くケモノ道だった。
「・・・確かに、ではこちらに進路を変更しましょう」
こうして王国軍は帝国軍を避けながら、さらに森の奥深くへと進軍して行く。
しばらく進んだ先は、誰か人が住んでいたのだろうか・・・少し空間が開いていた。
そう言えば、この辺にレジスタンスのアジトがあるって聞いたな。
誰かが、言った。