立ち上がれ、その胸に希望があるのなら
生い茂る草木の間・・・道無き道を進んで行く王国軍の行く先に剣戟が響き、戦塵が巻き起こる。
そこには、帝国の支配に窮する旧カローナの戦士たちが結成したレジスタンスのアジトがあり、
帝国軍に扇動された賞金稼ぎミゼルが手勢を率いて攻撃していたのだ
急襲を受け劣勢に追いやられるレジスタンス軍に彼女らは急ぎ、支援に向かう。
BF21 レジスタンスのアジト
ケモノ道を進んだ王国軍の耳に、剣戟が届いた。
その音は、どちらかと言えば一方的に鳴っている・・・多が一を追い詰めるように。
誰かが戦っているのは間違い無いのであろうが、劣勢だという事は容易に判断出来た。
追い詰めている側の人間は、何処かで見た事があった。
「あれは・・・賞金稼ぎのミゼル!」
幾度と無く王国軍の前に現れては、毎度毎度の如く蹴散らされた賞金稼ぎ。
そりゃあ見た事のある顔だ、誰もが思った。
「けどよ、相手は誰だ?その相手が解んなきゃ素通りも加勢も判断できねーな・・・」
ミラノの言う通り、現在の王国軍の位置からでは、追い詰められている側の人間が判断出来なかった。
そこで少し、様子を見ることにする。
ユグドラよりも色の濃い金髪と、大きな弓が目に入った。
「まさかこんな所クルス様に会えるとは思わなかったぜ、悪く思うなよ!お前の首には高〜い賞金がかかってんだからよ!」
ミゼルは相手を指差し、高々と叫ぶ。
クルスと言う名に、その容姿・・・ミステールが反応を見せた。
「あら?あの方は確か、お爺様に教えを請いに来ていた殿方ですわ!」
それを聞いた各将は、火山地帯での出来事を思い出す。
チェレスタはそこからさらに、この辺りを拠点にするレジスタンスについての事を思い出した。
「クルス・・・確か彼は反帝国のレジスタンスのリーダーだったかと・・・カローナの有志により結成された組織だと聞いています」
「と、言うことは味方なの?」
ニーチェの問いはミラノとラッセルの行動が答えた。
デュランが止める前にミラノは飛び出し、彼なら信用出来ると言いつつ、ラッセルがそれに続く。
戦うのなら、帝国軍に気付かれる前に迅速に決着を付けてしまいたい。
残りの部隊も2人に続いた。
「お前らに用は無い、どきな!」
賞金稼ぎ達へ、勇猛果敢にミラノが突撃をかける。
いくら人数が居ても、軍隊のように統率されている訳でも無く・・・彼らは簡単に混乱を起こした。
「お前たちは王国解放軍の・・・!?」
何人かは、自分達に勝負を仕掛けた部隊が何処かの判断がいったらしい。
それを口にして、さらに混乱が広がる。
「久しぶりだな・・・クルス、助太刀する!」
「ラッセル!?君が居ると言う事は、カローナは・・・!」
クルスと呼ばれた青年の顔に希望が戻る、ラッセルは軽く頷いてから前線へ向かった。
知り合いなのか、そう聞こうとしたがミラノは止めた。
久しぶり、意味も無くその言葉を言うはずが無かったから。
そこに後続の王国軍が、次々に追いついてきた。
帝国軍に気付かれてはならない為、あまり派手な魔術は使えない。
それでも・・・王国軍には彼女が居る。
「・・・コーマカルマっ!!」
眠らせなくたって良い。
ただ、その『刹那』を奪える事が出来るのならば・・・それで良い。
チェレスタは簡単詠唱にてコーマカルマを発動させ、一瞬の眩暈を敵に与える。
突然の事に訳が分からず、賞金稼ぎ達はあっさりと蹴散らされた。
クルスは助けられたことに礼を言い、王国軍へ軽く自己紹介をした。
「君らは、王国解放軍だって?随分貧相な軍隊だけど・・・」
その言葉にミラノが喰い付き、森を抜けるのには少人数の方が良いと言い張る。
実際、軍の大半を王都やカローナの守備に当たらせているので人数は少ない。
クルスが貧相と言うのも無理は無かった。
突然、彼は王国軍が来たことを丁度良いと、自分も加えてくれと言う。
「仲間は皆帝国にやられちまった・・・身勝手な帝国の連中を懲らしめてやりたいんだ、頼むよ!」
志を同じくするものであれば、拒む理由は無い。
彼の参加は、王国軍に歓迎された。
クルスの話だと、レジスタンスのアジトは未だ賞金稼ぎに占領されているらしい。
ここに彼らを残しておくのは分が悪い、帝国軍に位置を通報されるかもしれない。
アジトの奪還も兼ね、王国軍は賞金稼ぎを追い出す事にした。
クルスを追い詰めてアジトを奪ったミゼルは、油断しきっていた。
そこに、オブリヴィアスドーンの光が降り注ぐ。
「誰だ!?仕事の邪魔すんじゃねーよ!」
・・・まさか王国軍が居るとは思っても居なかったのである。
手下達の報告よりも、彼女らの襲撃の方が早かった・・・いや、ほぼ同時だった。
「油断大敵・・・ですわね♪」
「お前は王国解放軍の・・・!?ど、どうしてこんな所に!?」
ミゼルが状況を掴む前に、弓兵隊を束ねたクルスが突撃をかけた。
「悪いが、出て行ってもらおうか!」
彼に弓兵隊を纏めるよう、指示を出したのはチェレスタだった。
彼女の予想通り、弓兵隊の動きは、彼女が直接指示を出すよりも正確に動く。
大局を独りが動かして、各隊隊長は正確に動く。
王国軍本来の戦い方が戻ってきたような、気がした。
・・・それでも大局の操作はユグドラの方が上手かったが。
王国軍は本来の戦い方を、ようやく取り戻した。
そして賞金稼ぎ達から、レジスタンスのアジトも無事に奪還する。
「クルス様、同行されるなら僕はこのまま、貴方に弓兵隊を束ねてもらいたいのですが・・・どうでしょう」
チェレスタは不安げにクルスに、そして後ろを振り返り将達に案の可否を尋ねる。
彼の働きぶりは、先の戦いで証明されている。
誰も・・・彼本人も否を唱える者はいなかった。
こうしてクルスも、王国軍の一員となる。
「・・・嬉しそうですね、ラッセル殿」
「彼とは旧知の仲なんだ・・・互いに戦うことにならなくて良かったよ、本当に」
「なるほどな、だから珍しく最初に飛び出したのか」
クルスの加入を喜ぶラッセル、その訳はデュランとミラノが聞いた通り。
その一方で、ロザリィが複雑そうにしていた。
「彼の友・・・となると、やはり素直には信用出来ないか?」
「死んでった部下達の事を考えるとね・・・いいわねアンタは、相手が相手なんだし」
そう言って、ロザリィは悪戯っぽく笑ってみせた。
過去に白薔薇軍はラッセルに、黒薔薇軍はレオンにそれぞれ裏切られている。
ロズウェルは少し考え、そして再び口を開いた。
「我らは過去一度、チェレスタに刃を向けられた・・・だが、今はどうだ?」
「あのコは誰も殺さなかったわ、それにラッセルだって好きでやった訳じゃないのは解ってるつもりよ」
割り切ろうとしても、なかなか割り切れるものでもない。
こればかりは、時が経つのを待つしかなかった。
「黒騎士レオン・・・か」
ロズウェルはチェレスタの方へと視線を向けた。
その先で、彼女はイシーヌに尻尾につまづいて派手に転んでいた。
戦場では鬼神のような彼女も、普段はよく転ぶ娘だったな、と思う。
そういやチェレスタもレオンを恨んでいた、白薔薇領襲撃時の事を思い出す。
散らされた仲間を想い、自らの命さえも散らさんが程に。
幸い、ここでの戦闘も帝国軍には気付かれていない。
マルドゥークの森に詳しいクルスの案内を頼りに、また道なき道を進んで行く。
急がねば・・・彼女の命が尽きる前に辿り着かなければ。