実力はある、実力は・・・。


 レジスタンスのリーダー、クルスを救援し賞金稼ぎミゼルを撃破した王国軍。
彼の案内で先に進むも、抜け道の先も又一面の草木。
深きマルドゥークの森はまだまだ続く。



BF22 マルドゥーク北東部




 マルドゥークの森に詳しいクルスの案内で、王国軍の進軍速度は早まった。
それでもまだ森を抜けるには至らず、ただ黙々と歩を進めて行く。
半分を越えてしばらく、突然ミラノが足を止めた。
突然、周囲の気配が変わった。
「・・・帝国兵だ、しかもすげー数だぜ」
こちらの2倍、3倍はいるのではないかという帝国兵が待機している。
時々見え隠れする影が、嫌でもそれを知らせた。
「確かに、この警戒の仕方・・・尋常じゃないわね」
「この先にユグドラ様が居るのは間違い無さそうですね」
帝国軍の動向に注意を払いつつ、彼女らはまだ進む。
「ここが正念場なんだ、頑張ろう」
「レネシー山脈の時みたいに、霧でも出てくれりゃいいのにな・・・」
・・・約1名、ボヤき始めたが。

 それから数刻、ようやく森の出口が見え始めた。
部隊の最初の方を行く者は幾人か、外に辿り着いたかもしれない。
そんな時だった。
「わっ!!見られた!?このパメラ様ともあろう者が見つかっちゃうなんて・・・」
どこかで見た顔と声、パメラと名乗る魔導師が再び現れた。
前に会った時、確か彼女はウンディーネを狙っていたような気がする。
チェレスタは無意識のうちに、ニーチェの前へ立っていた。
だが、当の本人はそれを気にも止めずに話し始める。
「うふふふ・・・まさかまた会えるとは思わなかったわよ〜!今度こそパメラ様のモノにおなりなさい!」
やたらとノリと威勢は良いものの、それを見たニーチェは若干引いている。
「何、ちょ〜〜〜っとだけ実験材料になってくれればいいだけだから・・・」
痛くしないから、そうは言っても彼女の言動は怪しすぎる。
かといって、あまり騒ぐと帝国軍に気付かれてしまう。
どうするべきか・・・悩むチェレスタの元に、イシーヌが追いついてきた。
「わぁお!らっきーらっきー!まさかウンディーネがさらにいるなんてぇ♪」
「な・・・チェレスタ、何なんだコイツは!」
イシーヌを見た瞬間、パメラの目の色が変わった。
前回彼女はパメラに会っていない、何故パメラがウンディーネを求めるのかが理解不能だった。
流石のイシーヌも不気味になり、徐々に後退っていく。
パメラ自身はニーチェを取るかイシーヌを取るか、迷っているらしくキョロキョロしている。
 その隙をチェレスタが見逃すはずは無かった。
細剣を構え、パメラの喉元へ突きつける。
それこそ・・・少しでも動けば斬れてしまいそうな程に。
「僕達は君に用は無いんだ、大人しく退いてくれるなら・・・見逃すけど?」
退かなければ・・・。
冷たく刺さるような視線を向けられ、パメラの表情に恐怖が浮かんだ。
「わかったわよー・・・ぐすん、そこのウンディーネ!また後で!」
彼女も魔導師だ、チェレスタとの力の差を感じたのだろう。
大人しく森の奥へ立ち去っていった。
後で、この言葉が少し引っかかったが・・・。


 紆余曲折あったものの、どうにかして王国軍はマルドゥークの森を突破できた。
そして目の前に、荒涼とした大地・・・ロスト・アリエスの地が広がった。
「こんな所にアイツはいるのか・・・」
ミラノは握った手を、さらに強く握った。

絶対、助ける。

 先を急ごうとした王国軍だが、兵士から報告が入った。
どうやら後をコソコトと尾けていた者が居たらしく、一応捕らえたとの事。
捕らえられた者、それはパメラだった。
「森に居た変な魔導師・・・余程ウンディーネに未練があるようですね」
問答無用で武器を向けるチェレスタ、デュランはそれを下ろさせる。
「魔導師よ、我らに何か用があるのか?」
彼が訊ねるが、パメラは笑ってはぐらかそうとする。
だが視線はしっかりニーチェとイシーヌに向いたらしく、後に2人は寒気を感じたと語った。
チェレスタに未だ敵意を向けられている事を理解したのか、彼女は答えたが・・・。
「そのウンディーネあんたたちの仲間なんでしょ?幾らなら譲ってくれる?」
その内容はとんでもないものだった。
逆鱗に触れたか、チェレスタは今にも大斧で斬りかからんとする。
何とか落ち着かせようとするデュランを横目に、呆れたラッセルが答えた。
「残念だけど、王国軍に仲間を金で売るような者はいないさ・・・立ち去った方がいい」
彼女に叩き斬られたくなかったらな・・・。
チェレスタの怒りは治まらないらしく、無言のままパメラを睨みつける。
だが、当の本人は全く反省してないのか、一部分だけとかシッポの先だけとか言い始める。
仕舞いには、自分を仲間にしてくれとまで言い出すではないか。
「シッ、騒ぐんじゃねーよ!敵に見つかったらどうすんだ!」
森を抜けたとは言っても、近辺に帝国兵が潜んでいる事に変わりは無い。
見つかれば、森に待機している部隊の追撃を受けることになってしまう・・・それだけは避けたい。
「この様子ですと・・・帝国の密偵さんではなさそうですわね、如何致しますの?」
一同がどうしようかと悩み始める。
もし彼女が帝国の密偵なら・・・密偵にするならもう少しまともな人物を選ぶだろう。
 そうこうしている内に、何時の間にやらパメラは泣き始めてしまった。
「だってぇヒック!ウンディーネどこにもいないんだもん、ヒック!」
どうやら彼女は、エンベリアまで行ったようだが・・・ウンディーネに会う事は出来なかったらしい。
ここからエンベリアまではかなりの距離がある。
それを独りで、ニーチェは彼女に同情しているようだった。
「この人物・・・性格に難はあるようだが、只者ではないな」
ロズウェルが言うように、チェレスタもそれだけは感じていた。
ただならぬ魔力に、系統は灰・・・魔導隊の中では欠けている系統の魔力の持ち主。
「ね、上手く丸め込んで仲間にしたら役に立つんじゃないかしら?」
ロザリィがボソっと何か行った後、案を出した。
いまいち魔術に縁の無いデュランはラッセルは不審そうにしているが。
すると突然、ニーチェはパメラに、エンベリアまで行った事を確認しだした。
嫌な予感がする・・・イシーヌが呟いた。


「ニーチェが面倒みるから、一緒に連れてってあげようよ!」


 予感的中、イシーヌの顔にそう書いてあるようだった。
だが、放っておく方が実害が出そうなのも事実な訳で。
ニーチェが良いなら、とその場はそれで収まった。
パメラの表情が一気に明るくなり、早速ニーチェの事をメモし始める。
・・・ニーチェはちょっと後悔しているようだった。

「しかし、我らが王国軍は何故こんなにも・・・」
「変わり者ばっか集まって来るな」
考えれば、正規の軍とは思い難い役職の者ばかりが集まっている。
「実力はあるんですけど・・・ね」
呆れるデュランに、ミラノとチェレスタは苦笑いで応えた。
その一方で。
「ロザリィ・・・私もアレと一緒だと?」
「んげっ!き、聴こえてたんなら言いなさいよね・・・」
そんな2人のやりとりを、クルスが不思議そうに眺めている。
「仲、悪いのかい・・・あの2人、戦い方を見てるとそうは思えないんだけど」
「帝国が介入するまで、ヴァーレンヒルズは少なくとも平和だったさ」
「喧嘩するほどなんとやら・・・ですわ」
ラッセルとミステールの目には、どこか微笑ましげに映っていたのかも知れない。
わっかんないなぁ・・・クルスはまだ、不思議そうにしていたが。


 ここを突破したならあと少し。
ユグドラの姿求め、彼女らはただ突き進むのみ。