終止符へ向かって


 敵の策にはまり、周囲を大軍に包囲されて危機的状況に陥る王国軍だったが、
敵兵エレナの裏切りにより、かろうじて窮地を脱出する事に成功。
王国軍は、かつての魔導大戦の傷後が今なお残る死の大地・・・ロスト・アリエスの地を踏みしめる。
キリエが言うにはいくつかこの周辺には街があるという。
まずはそれらをあたり、情報を集める事にした。
「・・・ぁれ?」
チェレスタは少し、頭がぼうっとするのを感じた。
以前にも似たような感覚が・・・けれど、それの感覚もすぐになくなってしまった。
「どーした、大丈夫か?」
今現在の状況を考えて、彼女はこの事を黙っておく事にした。

 何故王国を嫌っていたキリエが急に手を貸したのか、誰もが疑問に思った。
本人曰く、あまりにミラノがドジをやらかすので心配になった・・・とのこと。
多分それは建前で、本音は別のところにあるのだろう。
口には出さずともそれぞれが、そう感じた。
 街で集めた情報によると、東にある監獄に綺麗な娘が連れて行かれたらしい。
さらに帝国の高貴そうな男・・・ガルカーサも一緒だったとのことだ。
キリエの情報だと、ここから東には砦と『贖罪の門』、そして監獄があるという。
前回のように伏兵はいないとの事、王国軍は迷わず進むことにした。

 監獄へ向かう最中、先頭を行くミラノが急に立ち止まった・・・誰かが立っているのだ。
何人かはその姿に見覚えがあった。
「あいつ、五頭竜将のネシア!マキナ・ブリッジで消えたんじゃなかったの?」
ロザリィが叫ぶが、当の本人は何も耳に入っていないような様子だった。
目の前の相手が王国軍と知ると、ただ淡々と語りかける。
「急ぎなさい、ガルカーサの魂の解放が完了してしまう・・・そうなったら、今の彼女では身も心も・・・」
「おいっ!何だって!?アイツがどうかなるのか!?どうして生きてるんだ・・・?魂の解放って何のことだ?」
ミラノが彼を引き止めようと叫ぶも、ネシアは消えてしまった。
何故彼が生きているのか、ユグドラはどうなってしまうのか、ガルカーサは何をしようとしているのか・・・


何もわからぬまま。


 死の大地でユグドラの消息を掴んだ王国軍は早速進軍を開始し、いよいよ贖罪の門へと迫っていた。
だが、贖罪の門は黒騎士レオンが黒騎士団を率いて守りを固め、さらにはバルダック砦にエミリオを配置して守りを固めていた。
 王国軍がバルダック砦に辿り着く頃既に、帝国軍と刃を交えている者があった。
それは、嘆きの谷で反旗を翻したエレナであった。
何故彼女は帝国民でありながら帝国に反旗を翻したのか・・・今度こそその問いには答えてもらえるのだろうか?



BF24 贖罪の門




 王国軍兵士が砦が確認出来る事を報告し、彼らは突撃の準備を進めていた。
ここまで来れば、後はバルダック砦と贖罪の門を攻略してユグドラを救出するのみ。
その偵察にチェレスタとクルスの部隊が動いていた。
 少しして、偵察に出ていた者達全てが帰還する。
「デュラン様、砦の防衛に当たっているのはエミリオの空挺師団なのですが・・・たった独りで戦っている者が」
チェレスタは、あのエレナが帝国と戦っていることを報告した。
さらに彼女はエミリオがエレナを裏切り者扱いしている事を、遅れてきたクルスはエレナがが兄を止めると発言していた事も報告に含める。
どちらにしろここで時間を稼がれる訳にはいかない。
エレナが敵か味方は置いておく事にし、まずはバルダック砦の攻略に掛かった。

 バルダック砦に展開したエミリオの部隊は殆どがグリフライダーで構成されているが、一部アサシンやヴァルキリーも混ざっている。
弓兵隊と近衛隊、魔導隊を中心に王国軍は攻撃の陣を展開して行った。
魔導隊が魔術でグリフォンを墜とし、高度が落ちた所でフェンサーやヴァルキリー達が攻勢に出る。
墜とし切れなかったグリフォンは、キリエが次々に撃破していった。
その間ナイトやウンディーネ、シーフにアサシン達でグリフライダー以外を攻撃してエミリオの元へ近づいて行く。
「この裏切り者!王国に寝返るなんて許さないんだから!」
だが、その間にもエレナは確実に追い詰められていた。
グリフライダーの中でも唯一魔術を使えるエミリオ、彼女はトドメといわんばかりのグラヴィティカオスをエレナに放った。
いくらアサシンが暗黒が効かないとはいえ、呪いを受ければ・・・。
闇の帯がエレナに迫る、逃げる隙も無い攻撃に、ただ見ていることしか出来なかった。

「悲劇の中に出でたる聖杖の賢者、その杖我らを護る盾とならん!」

 声の後、闇の帯が彼女を貫くことは無かった・・・目の前で霧散していくだけ。
「まぁ、姫ほどじゃあないけど・・・神聖なら任せなさいな」
ロザリィが愛用の箒片手に、エレナの後ろに立っていた。
エミリオは彼女の姿を見ると、王国軍がすぐ傍まで来ていることを察知した。
「来るなら来てみなさい!みーんな返り討ちにしてやるんだから!」
グリフォンを駆り、右手の鈍器を振り回し上空へ舞い上がる。
そして急降下、彼女が最も得意とする相手・・・デュランへ襲い掛かった。

けれど、それもきっと『彼女』は呼んでいたのだろう。

「貴女の忠告通り、あの娘はワリと簡単な性格のようです・・・ユグドラ様」
独り言と共に、チェレスタは右手を振り上げる。
「今までの礼さ!くーらえぃ!」
クルスの一閃を先頭に、次々と矢が放たれた。
「ユグドラ様は北パルティナの戦いの直前、各将の特徴と傾向を全員に伝えていた・・・まさかここで役立つとは」
その光景を眺め、本隊のチェレスタはまた独り呟く。
昔からそうだった、一見そうは見えなくても・・・一瞬でその人の『特性』を見抜いてしまう。
本当、僕の主人は敵に回したくない人だ・・・そう、思った。
 エレナ救出の報告を受け、彼女は突撃の合図を出す。
前線へ走る兵達を見送りつつ、彼らがちょっと羨ましかった。
本隊で指揮を執るのも悪くない・・・だが、やっぱり前線で武器を振るう方が性に合っている。
ちょっとだけ、少し前の無茶をしている自分が懐かしかった。

 バルダック砦を陥落させて贖罪の門へ出撃する準備の間、チェレスタ達はエレナから話を聞く事ができた。
と、いうのも・・・エレナの方から彼女達へ話しかけてきたのだ。
「・・・私は、兄のレオンが許せなかった」
黒騎士レオン・・・彼は敵だけでなく味方からも恐れられていたという。
兵士であろうと民衆であろうと、容赦などは一切しない。
捕らえた王国民が、無抵抗だろうと酷い仕打ちを繰り返す。
「兄は別人のようになってしまった・・・それでも、私は見捨てられなかった・・・それで・・・」
「それで、黒騎士を討ち取ろうと・・・そう、思ったんだね」
途切れた彼女の言葉の続きを、キリエが続ける。
エレナが特殊部隊に入りアサシンとなった理由も、レオンを討ち取り止める為だったという。
 だが、彼女は帝国民でありながら帝国を裏切った・・・もう帝国に戻ることは許されない。
これからどうするのかと聞いたミラノに、彼女は自分も連れて行って欲しいと言う。
「しかし・・・元帝国兵お前をどう信用しろと?」
以前帝国に裏切られたロズウェルは、反対の意を示した。
ジルヴァ配下の特殊部隊員と言えばみな精強な暗殺者ばかり、ヘタをすれば彼らの寝首をかく可能性もある。
デュラン、クルス、そしてイシーヌの3人もあまり賛成とは言えない表情をしていた。
「けれど帝国の人・・・いつもは正面から来るし、あまり心配しなくても良いと思うけどなぁ・・・」
そんな彼らに対し、ニーチェはエレナを庇う。
連中はそんな回りくどいことをしない、倒すつもりなら正面から来ると、ミラノも言う。
「あのー、だったらこの件・・・ユグドラ様次第でどうでしょう?」
味方同士が戦慄しそうな状況を見かねて、チェレスタはこそっと提案した。
そして今はそれよりも、ユグドラを見つけるほうが先決と後押しする。
結局エレナの件はユグドラを見つけるまで一時保留、とりあえず協力してもらうことになった。
裏切れば容赦はしないと告げるデュランに対し、エレナは弱々しくも、重く返した。
「大丈夫、裏切ることの重さを知ったから・・・」