全ては貴女の為


 黒騎士レオンを倒し、贖罪の門を突破した王国軍。
彼女らはようやく、王女ユグドラが捕らえられているというガレオン監獄へ到達する。
ユグドラは監獄の前に広がる処刑場跡地の十字架に掲げえられ、周囲を帝国の守備部隊に固められていた。

ユグドラの救出の戦いが今始まる。




BF25 ガレオン監獄




 贖罪の門を越え、王国軍はユグドラの姿を探していた。
意外なことに警備は薄い・・・まさか。
「まさか・・・姫様は他の場所に?」
考えたくも無い、もしこれでまた他の場所に居たとなると。
先のネシアの言葉を考えると、ユグドラはまず助からないだろう。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
 突然、ミラノが全軍に向かって叫んだ。
「おい、あれ・・・あの十字架に磔にされてるのは、まさか・・・!」
荒野の乾いた風に吹かれ、金の髪が揺れていた。
間違うはずも無い。

あれは、ユグドラだ!

 まさか・・・自分達は間に合わなかったのか!?
悪夢が脳裏を過ぎって行く。
「急ぎユグドラ様の救出に向かいます!邪魔者は蹴散らして行きます!ただし深追いはしないように!」
そんな不安を取り払うかのように、チェレスタは号令を出した。
大丈夫、きっと・・・いや!絶対生きてる!
最後にそれだけ付け加え、自らが先陣を切った。


 警備兵達の中に名の知れた将は居らず、ユグドラの元へはあっさりと辿り着いた。
周囲の警戒をしつつ、ミラノがユグドラの救出を急ぐ。
「・・・まだ生きてる!みんな安心しろ、ユグドラは無事だ!」
気を失ってはいるが、ユグドラ本人は無事だった。
全軍から不安が消えた・・・だが、まだ安心する訳にはいかない。
すぐ傍には帝国の本隊が居るであろう、急いで離れなければ。
 しかし、兵の報告が時既に遅しと告げる。
「やはり来たか・・・!」
「あの軍・・・まさか、帝国の本隊じゃないのか!?」
赤い大地に、紅の魔竜旗は不気味なほどに目立って見えた。
彼らは王国軍を逃がすまいと、ユグドラを奪い返さんと猛追をかける。
「今あんなのと戦ってたら勝ち目はねーぞ!」
兎にも角にも逃げるしかない!
「デュラン様、先頭はお願いします・・・殿は僕が!」
そう言って駆け出すチェレスタ、誰の制止も聞かず後方へ走り去ってしまう。
同時、ガルカーサとは別の『何か』を魔導師達は感じ取る。
「あたしも行くわ、皇帝の炎もアタシには効かないもの」
続いてロザリィも後方へ向かう。
「さーっきから前と後ろに魔導師が居る気がするんだけどー・・・気のせい?」
パメラが自身が無さそうに、ミラノへ尋ねる。
彼自身もわからない、という様子で首を振るも。
「気のせいじゃないさ・・・陛下の傍には義兄さんが居ますから」
この声と、兵の前方に帝国軍発見の報告はほぼ同時だった。
「エミリオ隊が撤退していくのでおかしいと思ったが・・・よくぞここまで辿り着いたものだ、王国軍!」
王国軍の行き先に、アイギナとフォルテが立ち塞がる。


 帝国軍の追撃を防ぐべく、奮闘するチェレスタとロザリィ。
数は少ないものの、あまりのしぶとさに帝国軍はイラつき始めていた。
そしてガルカーサは、この状況を打開するべく『彼』を呼ぶ。
「樹木の精霊ドリアデの言の葉、樹木と生きる気高きドリアデよ・・・茨を振りて我らの敵を討て」
突如発動したアイヴィウィップに、チェレスタは四肢を封じられる。
ロザリィと数名のウィッチは何とか空へ逃れたが、劣勢は未だ続いていた。
「無様だな、感情に流され突っ込んでくるとは・・・流石は王女の部下、か?」
ガルカーサはドラゴンから降りず、その鎌をチェレスタの首へと掛けた。
「仲間にも見捨てられて・・・どーする?降りるか?」
気付けばロザリィの姿は見当らなかった。
レシュテは悪意を感じさせない声色で、何も出来ないチェレスタを見下す。
蔦はその間も、彼女の四肢を締め付けた。
今は耐えろ・・・何度も自分にそう、言い聞かせる。
 その時、彼女の中に一瞬・・・一つの旋律が浮かんだ。
たった一文・・・けれども荒々しく、破壊のみを求めるようなドス黒い旋律。
チェレスタの雰囲気が変わった。

「・・・数多なる罪業に榮えしは死の都

守護者達の綴る謳の中でも、『焔』と呼ばれる系統は謳い手の精神が強く反映されるという。
そして過去の守護者で破壊に酔い、「堕落者」と呼ばれた者は。


謳ェ 哀哭ト號叫  祀レ 涙ョリ紅キ生贄  謳ェ 虚僞ト詛ィ  祀レ 吹キ荒ブ欲望


その殆どが『焔』の謳い手だったと云う。


 全ての破壊を望むかのような旋律に、レシュテも、ガルカーサも耐えられなかった。
怯み、魔術も解除されてしまう。
自由を取り戻したが、チェレスタは謳に『酔った』ままだった。
このままでは彼女も・・・。
「天空を駆けるルキオン!雲を裂き、閃光となれ!」
背後から突然の魔術、チェレスタはサンダーボルトの轟音で我を取り戻した。
そして今何をすべきか、それも同時に思い出す。
「クルス様!・・・すみません、迂闊でした」
「いいよ、こうして助けられたんだし・・・前方の敵は片付けた、急ごう」
謳と雷撃に怯む帝国軍を尻目に、王国軍は撤退を始める。

 2人が王国軍と合流すると、そこにはエレナの姿があった。
前方を塞いでいたアイギナの右目を彼女の弓が射抜き、彼女らを撤退に追い込んだというのだ。
その間、撤退したロザリィはクルスにチェレスタの救援を頼んだのだ。
奇襲戦で彼の右に出る者はいないからね、ラッセルがクルスを横目にそう言った。
「よし、新しい仲間も増えたことだし・・・さっさとパルティナへ戻ろーぜ?」
ミラノの言葉に誰もが頷く。
「今ならマキナ・ブリッジも修復されてるはずですわ」
王国軍は、今度はまっすぐパルティナへと向かう。

全ての追撃を振り切りユグドラを奪還した。


そう思えたが・・・帝国軍は諦めなかった。