見事ユグドラを救出し、パルティナへ急ぐ王国軍。
だが、帝国軍は猛追をかけて徐々に彼らを追い詰めて行く。
そして修復されたマキナ・ブリッジを目前にして、王国軍は遂に追いつかれてしまう。
迫る大群、如何にして彼らを退けるか?
Chapter4 暗闇に置いてきた記憶
BF26 修復されたマキナ・ブリッジ
兵からの報告が入り、王国軍はパルティナを目前にして、遂に帝国軍に追いつかれてしまった事を知る。
住民を避難させてない以上、市街戦に持ち込むことは出来ない。
かと言って、もう一度マキナ・ブリッジを落とす余裕も無い。
ならば、王都へ続く道を防衛しきるしか・・・。
デュラン、ミステール、パメラ、ニーチェにユグドラの護衛を任せ、残りのメンバーがマキナ・ブリッジ前に展開する。
4人の部隊が戻ってくるまで、持ちこたえなければ。
帝国兵の、姿が見えた。
まず最初に飛び込んできた人物を見て、王国軍は目を疑った。
夢であってすら欲しいとも思った、目の前にいるのは・・・黒い甲冑の戦乙女。
「おいおい・・・冗談だろ?」
「ア、アイギナだと!?あいつの右目は・・・!」
確かに『アイギナ』の右目は、エレナの矢が貫いた。
だが、目の前にいるアイギナは、何事も無かったかのように平然としている。
そこへ追い討ちを掛けるように、敵増援の報告が入った。
その増援を率いる将に、王国軍はさらに混乱することとなる。
「エレナ・・・!貴様よくもッ!!」
将はエレナを狙うも、近くにいたラッセルが割って剣を受け止める。
「君は、アイギナ!?」
「い、一体どういうことなのよ!」
戦場にアイギナが2人、増援として来た彼女の右目には包帯が巻かれていた。
だが、その顔は全くといっていいほど酷似している。
包帯が無ければ、区別すら困難なほどに。
「ルシエナ姉さん、こっちは任せて!」
赤い甲冑の戦乙女は、黒い甲冑の戦乙女を『ルシエナ』と呼んだ。
ここで何人かが、真実に気付き始める。
「そうか、双子か・・・!」
戦乙女アイギナの正体は双子の姉妹、姉のルシエナと妹のアイギナが交互に戦場に出陣していたのだ。
しかし、それが解ったところで事態はあまり好転はしない。
彼女達の実力は、戦ってきた王国軍が一番良く知っていたのだから。
この状況を如何に乗り越えるか。
チェレスタは必死に考える、まずは混乱した部隊を立て直さないと・・・!
「幾度戦乙女が出撃しようと、我々はそれに必ず打ち勝ってきた!怯むな、迷うな、王国の誇り高き騎士達よ!!」
不安なのは、彼女も同じだった。
ユグドラ、デュラン、ニーチェと、普段一番信頼している者がこの場にはいない。
頼る事も出来ない、本当に護り切れるのだろうか・・・不安に押し潰されそうになる。
それでも、ユグドラが立てぬ今、彼女の代役を自分に任せてくれた皆を信じるしかない。
皆もきっと、自分を信じてくれているのだから!
「近衛隊、シーフ隊を盾にアサシン、ネクロマンサー達を攻撃の主軸とします!」
ヴァルキリー達は神聖攻撃を得意とする所為か、反対属性である暗黒属性には滅法弱い。
さらに日が落ちた今ならば、闇と月を味方にするアサシンやネクロマンサー達の攻撃は最大限まで強化される。
王国軍は徐々にではあるが、確実に形勢を覆していく。
だがそこへ、さらなる増援が襲い掛かる。
「さっきはどーも!」
追いついてきたのはレシュテの部隊、この状況で魔術に長けた人物・・・最悪の相手。
チェレスタは鎌を大斧で受け止め、弾き返す。
彼の後ろに帝国兵の姿を感じた彼女は、クルスへ目線で牽制の指示を出す。
クルスは天空の加護を受けている所為か、弓と雷の扱いに長けている。
その矢と雷は少しずつではあるが、確実に帝国兵を抑えていった。
帝国軍有利に思えた戦いも、各々の機転と実力、そして連携により王国軍はじりじりと彼らを疲弊させる。
さらにニーチェが前線へと帰還し、防衛網はさらに強固となる。
彼女はイシーヌとは別れ、前衛の足りないチェレスタの隊へと合流した。
後少し、後少し戦力があれば帝国兵を撤退へ追い込める!
希望を抱き戦うが、そんな王国軍の傍には常に、予期せぬ事が付いて回っていた。
「なぁ、鎌の形状が何故他の武器に有利か・・・考えたコト、ないだろ?」
幾度も互いの武器を打ち合い、チェレスタとレシュテは再度鍔迫り合いへと縺れ込む。
急に何を・・・そう言おうとして、レシュテは不気味に笑った。
やはり悪意は、感じさせずに。
彼は鎌の刃を大斧の柄に引っ掛ける様回転させると、一気に振り抜く。
「・・・え!?」
一瞬の出来事、あまりに一瞬過ぎて、チェレスタはそちらへと気を取られてしまう。
手にしていた大斧が、刃の付け根の辺りから折れてしまったのだ。
呆けている間に、鎌は彼女の首を捉えた。
「勝負アリ・・・本望だろ?主人を護って死ぬなら・・・サ」
言葉の後、レシュテの鎌がチェレスタの首を刈り取った。
・・・はずだった。
変わりに響いたのは金属音、斧の柄を捨てた彼女の右手には細剣。
剣の刃は鎌を止め、流血をも厭わずに添えられた左手が支えとなって、折る事が出来ない。
それは、元々斧を振り回していた彼女の腕力に因る物なのだろうか?
それとも・・・?
「ユグドラ様から賜った剣・・・勿体無いから使いたくなかったけど」
彼女を思うが故の強さに因る物なのだろうか?
鎌を弾き、2人の戦いは再び平行線に戻る。
だが、そんな平行線も少しずつ屈折していて・・・やがて終焉を迎える。
「ニーチェだって、ニーチェだって王女さまの役に立つんだから!」
「折角ココまで来たんだ、負けられないってね!」
ニーチェとクルス、2人と彼女らの隊の者達の気迫が、帝国軍を追い詰めた。
冷静で、飄々とした態度を取りながらも・・・心の何処かでは焦っていたのだろうか。
彼は今まで、独りで居る時は絶対に隙を見せなかった。
悔しいくらいに、そんな事は昔から知っていた。
そんなレシュテが初めて、たった一瞬の隙を見せる。
若輩といえども、もうチェレスタも歴戦の勇士・・・それを見逃さないはずが無い。
本当ならここにニーチェが居て欲しく無かった、とも思った。
右目を隠す包帯が少しだけほどける。
「・・・簡単に人を裏切れる人は・・・死んでもイイと思う」
下顎から脳天へ、右手の細剣は臆する事無く真っ直ぐ貫いた。
ほぼ、即死。
細剣を抜き、振って血を払う。
力無く倒れたその瞳は、最期に何を映したのだろうか?
レシュテ撃破の吉報に士気が上がる王国軍に、さらに敵増援が告げられる。
チェレスタ目掛け、豪雷が落ちた。