本当に強い人
『答』は、『彼』の背後に居たユグドラ様に聞かれていた。
どうやら全てを把握した上で、聞いていたらしいのだ。
本当を知りたいと、わざと姿を隠して。
そして彼女は僕にこう言った・・・この人になら全部話しても、いいのかな?
「辛かったのでしょう・・・ごめんなさい、気づいてあげられなくて」
浅葱色の髪に陽月の瞳の少女は改めて、主へと全てを話した。
自分の過去、犯した罪、隠していた事。
生まれは宗教都市群ロンバルディアが都、ロンバルド。
彼女が生まれた家では、女性は代々守護者として、ロンバルディアの要職に就いている。
そしてそこでフォルテと、確かに双子として生まれた。
だが彼女は、両親と同じ韓紅花の髪に翡翠の瞳を持って生まれた兄とは違い、
真の守護者としての証・・・金陽と銀月の瞳を持って生まれてしまった。
『守護者』。
それは焔・天・蒼の内どれでもいい、どれか一系統の謳を奏でられる女性の事を言う。
さらに系統ごとに曲調は大きく変わり、精神や性格の問題から必ず一系統しか奏でられないという。
例え先天的に謳う事が出来ても、後天的に修行を積んで奏でられるようになったとしても。
だが、真の守護者だけは違う。
先天的に証の瞳を持って生まれたものは、全系統の謳を奏でる事が出来るのだ。
過去にたった2人だけ、それが確認されている
それは伝説とも云われ・・・まさに憧れ、でもあった。
真の守護者として生まれてしまった彼女は、焔の守護者であった母に嫉まれた。
自分と妻、そのどちらの特徴も受け継がなかったことから、父からも気味悪がられた。
その家で生まれた子は代々、楽器の名を名前としてつけれらいる。
しかし彼女は『無かった』事にされ、鎖に繋がれ地下に幽閉。
付けられた名前も毒花・リコリス、本来付けられるはずだったチェレスタという名は・・・。
「1年後に妹が生まれました・・・その子の名前が、チェレスタだったんです」
フォルテは何も知らないまま、リコリスではなく・・・チェレスタと双子と思い込んだまま育ったという。
だが、とある日彼は街を追われて何処かへ行ってしまった。
理由はわからない、だがその日から・・・自身は全系統を奏でることが出来るようになった。
守護者として覚醒することも出来ない妹には妬まれ、母はただ苛つく毎日。
チェレスタを世継とした以上、覚醒までリコリスを彼女の『ゴースト』にするしかない。
早く彼女が覚醒さえすれば、リコリスのような忌々しい存在、一刻も早く消してしまいたいのに。
母と妹、2人からの虐待はそのころから始まり、日に日に激化していった。
その傷跡は未だ、全身に残っている。
右目の傷を付けられた日、リコリスはレシュテと出会った。
チェレスタが去った後、地上が騒がしかった。
直後、聞こえたのは家族の断末魔、暴れ回り笑い転げる蛮族達。
心臓が高鳴る、治まらない・・・死の恐怖に初めて向き合った・・・手加減を知らずとも命を取らない奴らとは違う!
右目を傷つけたナイフで必死に足を繋いだ鎖を断ち切り、蛮族達を突っ切って逃げ出した。
そして砂漠まで逃げて、死の瞬間に・・・彼と出会った。
名前を聞かれて、正直焦った。
もし本当の名を言ったのなら・・・また同じ日々が繰り返されるのだろうか?
怖かった、だからとっさに、妹の名を名乗ってしまった。
彼女の名前ならば大丈夫だろうか?・・・そんな浅い考えで。
結果として、フォルテにはあるはずの無い恨みで恨まれてしまったが。
蛮族を薙いだ彼の魔術は相当の物で、一撃で終わったかと思われた・・・が。
背後に控えた伏兵がいっせいに出現、彼を狙った。
当時の自分はきっと、どうしてもレシュテを助けたかったんだろう・・・ヴァネッサの呼びかけにも応じてしまったのだから。
そしてリコリスはヴァネッサとキス・オブ・デスにて契約、尋常でない回復力と膨大な魔力を制御する為の力を与えられた。
結局・・・その力と個人的な理由で、彼に利用されてしまったが。
傷つけなくていい人達も・・・きっと沢山傷つけてきた。
だから幻想墓標で僕は、死を選んだ・・・はずだったのにな。
まだ生に執着してた・・・みたいです。
「それでも貴女は沢山の人を護ってきた、私だってそうよ・・・リコリス?」
言葉に振り返った彼女に、ユグドラは微笑んだ。
夜風が優しく吹いている。
後日、この事はユグドラ自身の口から将に伝えられた。
そして将から家族の者へ、家族の者から友人へ・・・民達の間にも伝わった。
今ではもうリコリスの事を、咎める者はファンタジニアにはいないだろう。
将達もある者は彼女へ謝罪し、ある者は感謝を述べ、ある者はお帰りなさいと泣いていた。
そして高名な占い師「パルティナの母」の言葉に導かれ、ユグドラは王位を継ぐ事を決意する。
行軍の傍ら、そこにはリコリスの姿があった。
マキナ・ブリッジで落としたはずのレイピアが白く輝き、新たに賜った黒いレイピアを反対側に携えて。
ブレイブ・メイデン、リコリス。
彼女は、『守護者』としての責務を果たす為に。