灼熱の強行軍


 ガレオン監獄で魔竜の封印を解き強大な力を得たガルカーサに対抗する為、
ユグドラが持つ聖剣グラン・センチュリオの「真の力」が求められた。
だが、真の力を受け継ぐ事ができるのは正統なるファンタジニア王と認められた者のみ。
そして、その王位継承のためには聖地ベルヘイムでの戴冠が必要不可欠であった。

 ベルヘイムはニルルド砂漠を越えた遥か南メリア教国領に存在する。
ユグドラの回復を待った後、王国軍は聖地を目指して出発した。
しかし一方で、ユグドラを奪われた帝国軍もジルヴァ暗殺部隊を進撃させ、
また、賞金稼ぎたちを多額の報酬で扇動し、次なる作戦を展開していたのだった・・・。



Chapter5 光と影にたゆたう罪と真実

BF28 二ルルド砂漠北部





 ファンタジニアを出て南下して行く王国軍。
少し離れただけだというのに、太陽も大地も全く別物へと変わっていた。
体力も奪われ兵たちの士気も落ちていく中、帝国軍の部隊が動いていると報告が入った。
さらに、目指すオアシス都市に賞金稼ぎ達が待ち構えていることも。
 帝国軍の動きに注意しつつ、王国軍はライネの町を占領している賞金稼ぎを一掃する事にした。
賞金稼ぎ達は多額の賞金と出現場所に釣られて煽動されただけだったのだろう。
水を目前にしたウンディーネ部隊の猛攻で、あっさりと退却していった。


 補給を終えた王国軍は次のオアシス都市、ソネッタの町を目指す。
所々から聞こえてくる愚痴はまだ頑張れる証拠、渇を入れつつ先を急ぐ。
しばらくしてソネッタの町が見えてきたのだが・・・ここにもならず者は居た。
「おおっと!ここは通らせねえぜ!」
この辺りの蛮族が伏兵として潜んでいたのだ。
何者だと問うても、自分から名乗る盗賊は居ないと返される。
 だが、親分と思わしき人物が子分達を呼び止めた。
「待て!こいつぁユグドラ王女様じゃねぇか!」
蛮族の親分はドルトと名乗り、ここいら一帯を縄張りにしていると告げる。
「僕らはベルヘイムへ向かっている、君達と争う理由は無い・・・出てきてもらって悪いが、そこを通してもらおうか」
リコリスはユグドラの前に立ち、ドルトを睨み付ける。
彼は大きく笑うと、リコリスの言葉を蹴った。
ユグドラは帝国の賞金首、捕らえれば結構な額になる・・・と。
「姫様に対して賞金首などと申すか、この無礼者!」
ドルトの態度にデュランは怒り、後続の者たちも次々と臨戦態勢に入る。
敵は戦い慣れてる、とミラノの警告の後王国軍は突撃をかけた。

 デュラン、リコリス、ラッセルの隊が先陣を切って前線へ突っ込んでいく。
王国軍は四方を囲まれた不利な状況からのスタート、残りの者は本隊の防御へと当たった。
リコリスが簡単詠唱で子分達を牽制し、2人をドルトの敵本隊へと突撃させる。
「蛮族よ、覚悟!!」
前線の戦いは王国軍優位に思えたのだが、何か違和感があった。
その違和感の正体を掴めぬまま、リコリスは子分達の足止めに時間を取られる。
「ガハハハ!賞金首が王女様だけだと思うなよ・・・お前ら、やっちまえ!」
ドルトは余裕たっぷりに笑い、子分達へ命令を出す。
途端、子分達はユグドラからミラノ、デュラン、そしてラッセルへと標的を変えた。
「まさか・・・王女以外にも帝国は賞金を掛けてるのか!?」
 イシーヌが叫んだ通り、ユグドラ以外にも帝国は、王国の主だった者にも賞金を掛けていたのだ。
しかも彼女と違い、条件は生死問わず。
さらに盗賊や賞金稼ぎ達には金額と共に、人物別の対処法まで教えられている。
優位のはずなのにどことなく圧されている?
これがリコリスが感じた違和感の正体だったのだ。
 さらに蛮族達はドルトの指示の元、最低人数を足止めに残し3人を集中的に狙っている。
油断した、どうにかしなければ・・・!

 そんな時だった、急に風が荒れて朱い羽根が舞い散ったのは。
「ミラノ!助けに来たよ!」
贖罪の門で飛び去ったキリエが、援軍として飛んできたのだ。
ミラノはキリエが王国には手を貸さないと言ったのを覚えていた。
「何で来たんだよ?お前なんかの力は借りねーよ!」
空に向かって悪態を付く。
だが、キリエは「意地っ張りなんだから」と笑い飛ばした。
彼女の真意が解らず、ユグドラは名前を呼ぶ。
「ほらほら、ぼーっとしない!白い領主様、ウンディーネ達がピンチみたいだよ!」
「え・・・?わ、わかったわ!」
本当に協力するつもりなのだろう、キリエは空の上から状況を細かく叫んでくる。
それを信じ、王国軍は反撃へと転じた。

 反撃に転じ、リコリスは敵の統制を崩すべくドルトへと勝負を仕掛ける。
右手に黒を、左手に白を、大斧が鍛えた腕力がダブルレイピアを何でもないかのように操っている。
押しつ押されつ、彼女はドルトと対等に渡り合う。
「ガハハ!小さいのにやるのう!!」
「伊達に騎士団直属の魔道部隊率いて無いから・・・けど」


「小さいって言わなかった?」


 リコリスはその一言を聞き逃さなかった。
「絶望の果てに乙女は死を告げる・・・イオナが悲痛なる想いは全てを貫く剣となりて!」
「咎人ラウネが罪の記憶は時の移ろいと共に消え逝きて・・・石の断罪は全てを許さぬだろう!」
剣戟の旋律に乗せて、2つの魔術を彼女は謳う、出現した陣は戦場一帯に広がった。

「我は謳おう『彼女』と共に」

 最後の一文の直後バンシーズクライが、暗黒系掌握術・メデューサアイが同時に発動した。
これにより、蛮族達へ一気に動揺と混乱が広がった。
「元々戦う気は無かったんだ、命までは取らないさ・・・素直に逃げるなら、ね?」
右のレイピアをドルトへ突きつけ、リコリスは首を傾げた。
動きを封じられ、膝を突いた彼は潔く敗北を認めた。
「・・・ガハハハ、やるのう!しかし次はこうはいかんぞ、覚えとれ!」
敗北宣言と共に全員の石化は解除され、彼らはあっという間に逃走していった。
最も、ソネッタの町に着くまで彼女がバンシーズクライを解除しなかったので、反撃しようにも出来なかったのだが。


 ソネッタの町の住人達は、盗賊を追い出した王国軍を歓迎した。
そして最近の周辺の情報も教えてくれた。
どうやらテンプルナイツと呼ばれる者達の姿無く、盗賊たちが自由に闊歩していたのだと。
さらに、教会領での悪い噂も聞いていると言うのだ。
ユグドラは兵達に、一層警戒するように伝えた。
「ミラノ、今度もウチのお陰で助かったでしょ?感謝なさい!」
一方、ミラノはキリエの行動に半ば呆れていた。
今までの行動が行動だけに、感謝よりも、何故来たのかと疑ってしまうのだ。
本人はユグドラが、どんな人物か見極める為だと言い張っている。
だが、その声は少し焦っているような、何かを隠しているようにも聞こえた。
「ねぇねぇ、クルスクルス」
「ん、パメラ、どうかしたのかい?」
「なーんか似たような2人、たーしかもう一組あったわよねぇ?」
「あぁ・・・うん、そういや居たな・・・」
そう言って2人はその気は無かったのだろうが、ついロズウェル、ロザリィの方を見てしまう。
それに気づいて逃げるパメラ、クルスと追いかけるロザリィ。
知り合いとして謝るラッセルに呆れるロズウェル、それを見て楽しそうなニーチェにミステール。
「この忙しい時に・・・」
「いいじゃないですかデュラン様、ユグドラ様が捕縛されてから笑う余裕も全然無かったんですから・・・」
騒ぐ彼らを横目に2人は補給作業を進める、イシーヌに呼ばれリコリスは急いで走るものの・・・砂地に足を取られ転んでしまった。
転んだ彼女をみて思わず、デュランもイシーヌも笑ってしまった。
「・・・たしかに、全く変わり者ばかりが集まったものだ」


補給を終えて彼らは再び砂漠を進む、灼熱の強行軍。
熱砂も残り半分を切った。