蛮族掃討作戦


「わかってはいたけど・・・あ、暑い・・・のに」
「そうね、1人不自然にケロっとしてるのがいるわね・・・」
茹だる様な暑さの中、キリエやロザリィと言った女性陣の嫉妬(?)の目線がリコリスに注がれる。
慣れているだけと弁明するも、彼女はどうしていいかわからず慌てている。
灼熱の強行軍はまだ、続く。

 ミネルロードに沿って点在するオアシス都市で補給を行いながら進む王国軍は、
ニルルド砂漠の慣れない地形と暑さ、そして砂漠を横行する蛮族団と戦いながらようやく砂漠も半ばに差しかかっていた。
次なる補給拠点は交易都市ランケット。
だが、そのニルルド最大のオアシス都市を蛮族団が襲撃しているのだった。
都市を警護するはずのメリア教国軍テンプルナイツの姿は見られず、ただ、都市の住民達は蛮族の脅威に晒されているのだった。
帝国軍も新たにエミリオ空挺師団を展開、教国領で一体何が起きているのだろうか?


BF29 ニルルド砂漠南部



 ユグドラの戴冠の為、汗と血を流しながら王国軍はひたすら砂漠を突き進む。
彼女もそれを実感してか、自分が期待に応えられる存在にならなければならぬと意志を固めていく。
 そんな中、偵察に出ていたエレナ、リコリスの報告が入った。
エレナの報告は、ここから西に新たな集団を発見したとの事。
「帝国軍・・・それもエミリオ空挺師団のようですが、攻撃してくる気配が全く」
リコリスの報告は、この先の街・交易都市ランケットを先の蛮族達が占領しているとの事だった。
「帝国の動きも気になりますが、ランケットの民達も心配です・・・如何致しましょう?」
帝国が何を考えここにいるかは確かに気にはなる。
だが、だからと言って蛮族に占領された町を放っておく訳にもいかない。
「わかりました、まずはランケットの解放を優先します・・・皆、戦闘準備を!」
ユグドラの号令で王国軍は、進軍速度を速めランケットへ急いだ。

 町を占領していたのはどうやら雑魚ばかり、王国軍の敵ではなかった。
デュランやミラノ、ラッセルといった前衛が敵の動きを止め、魔導隊・ウンディーネ隊がそれを魔術で一掃する。
さらにハンター・アサシン達が追い討ちをかけると、蛮族はあっさりと散っていった。
 程なくランケットは解放され、住民達は歓喜に湧き上がった。
「この町を救ってくださってありがとうございます」
そう言って王国軍に近づいてきたのは、ランケットを束ねる知事。
その後ろでは何人もの住民が、王国軍に謝礼を述べていた。
「何故、この辺りではここまで盗賊達が跳梁しているか、ご存知ではないですか?」
デュランの問いに、知事は答えた。  この辺りの治安は教会の騎士団『テンプルナイツ』が保っており、
彼らが不在になった途端、ここぞとばかりに盗賊が暴れ出したという。
では、何故テンプルナイツは居なくなってしまったんだろうか。
そんな素朴な疑問に、知事は申し訳ないように答えた。
「・・・まことに申し上げにくいのですが・・・どうも教会の腐敗が原因のようでして・・・」
「成程、腐敗した協会にとっては神の教えと正義を愛する騎士団が疎ましかった、だから解体した・・・そういう事だろう?」
ロズウェルの言葉にミステールが頷く。
「そういえばー、どこかの町でもそんな事仰ってましたわね〜」
「だから、悪い人でいっぱいになっちゃったの?」
さらに知事は追い討ちをかけるように、もう1つの事実を告げた。
 どうやら教会の腐敗には、帝国が絡んでいるのだという。
・・・それも、何年も前から。
テンプルナイツが解体されたのはつい最近だが、それ以外の目立たぬ動きは何年も前からあったという。
その言葉に少し、リコリスが反応した。
「リコ、戦えるのか?」
「デュラン様・・・僕は大丈夫です、この剣がある限りは・・・」
リコリスはユグドラから賜ったレイピアに視線を落とす。
次にデュランに向かった彼女の瞳は、真っ直ぐだった。
過去を忘れず、戒め、未来へと向かう、そんな瞳。


 一通り話を聞いた所で、盗賊団も帝国と共犯なのではないかという考えが浮かぶ。
もしそれが本当なら、大変な事になる・・・確かめなくては。
その時、キリエが盗賊の生き残りを捕縛してきたのだ。
「貴方たちの根城を教えなさい、正直に話せば命は取りません」
殺されるのかと怯える彼に、ユグドラがきつく問う。
本当かと問い返され、二度と悪行を働かぬのなら約束は守る、と言い返す。
すると彼は正直に根城の在り処を教えた、方角にしてランケットから南南東。
盗賊の生き残りを解放すると、王国軍は進路を蛮族の根城に定め、進軍を始めた。

 蛮族の砦に近づくにつれ、妙な、巨大な像が聳えているのが目に入った。
偵察兵の話だと、彼らは『太陽神バーラパーサ』を信仰し、巨大な像を守り神として信仰しているのだという。
「偶像信仰・・・か、なら壊しちゃえば一網打尽に出来そうでは?」
リコリスの提案により、まずは守り神の破壊、そこから蛮族の討伐という方針に決定された。
 魔導隊の援護を受けながらユグドラ、リコリス、ラッセルの隊が前線を越えて守り神へと突撃する。
蛮族達は破壊させまいとそれを懸命に反撃するものの、他の前衛部隊が邪魔で思うように動けない。
そこに追い討ちをかけるように、ブリザードやサンドストームが吹き荒れる。
だが、守り神の影響の所為か、完全に王国軍のペースとはいかない。
「・・・ハンター部隊、魔導隊、ちょっとだけお願いしますね?」
それを見かねたリコリスは前線を離れ、魔術を詠唱し始めた。
「途絶える事無き狂乱の宴、風魔サエザルは刃と為りて全てを裂かん・・・」

「謳え、蒼き旋律と共に」

 発動するライオットウィンド、サンドストームで舞い上がった砂を巻き込みさらに荒れる。
視界はほとんど遮られ、敵味方共に行動が止まってしまう。
「・・・やるのぅ、小娘!」
その中でも、砂漠地帯に強いリコリスはドルトの動きを止めるべく斬りかかる。
剣戟は聞こえるが、未だ視界は晴れない。
だが、かろうじて目の前に何があるか程度は確認できる。
「ユグドラ、ラッセル!今しかねぇ!!」
ミラノが強く叫ぶ、その声は確かに2人に届いた。

 程なくして魔術の効果も切れ、視界も完全に晴れた。
「グウォォォォォ!」
同時、轟音と共に守り神が完全に崩れ去った。
まさか守り神が・・・蛮族達は混乱し、ドルトが落ち着かせようとするも、誰も話を聞いていられない。
「隙は、こうして作るものさ!!」
背後、今まで相当遠くに居たと思われたイシーヌが単独で突っ込んできてたのだ。
あまりに突然の事で対応も出来ず、槍のリーチに成す術も無い。
「ち、ちくしょうめ・・・!」
「これまでの行動、地の底で悔い改める事だな・・・蛮族首領は討ち取った!!」
彼女の声に続いて鬨が響き、王国軍は蛮族に勝利した。


 砦を落とした王国軍は生き残りを集め、きつく問う。
帝国に雇われているのか・・・と。
だが彼らは帝国とは関係ない、騎士団が見当たらないから暴れていたと言う。
「ただ・・・」
「ただ?」
別の生き残りが、少し前から帝国軍がこの辺で動いているのを見たとの事。
それも、蛮族の討伐に来たのではなく、何かを探している・・・そんな感じだったと。
帝国本国はニルルド砂漠から遥か北、彼らがここに来ているということは・・・。
「間違いなく何かあるわね、メリア教区まで急ぎましょう・・・そこまで行けばきっと何かわかると思うの」
砂漠を抜けるまで、もう残り少ない。
準備を急ぎ、王国軍はメリア教区へと出発した。


 道中、ミステールはリコリスへ声をかけた。
「・・・よろしかったのかしら?」
「何が、ですか?」
とぼけるリコリスに微笑み、ミステールは話す。
「貴女は数年前の『砂漠の騒乱』の生き残り、騒乱の首謀者は彼ら・・・」
仇を、家族の仇を取らなくても良かったのか・・・と。
だが彼女は、静かに首を振った。
「もしそうだとしても、それを裏で操ってたのは腐敗した教会、さらにその裏には帝国・・・憎むべき相手が違います、それに」
自分にはまだ、まだ『兄』が居る・・・例え彼が敵だったとしても。
「いつか彼に『真実』を伝える為に、憎悪はもう捨てました」
リコリスの答えを聞いたミステールは、どこか満足そうで、嬉しそうだった。


「あの方は、まさか・・・まさか、遂に御帰還なされたと言うのか・・・!?」