本隊から別れた場所から寂れた教会まで、道は砂漠続き。
王国軍は帝国軍より大きく遅れ、到着する事となった。
先に到着した彼女らが既に調べ始めている所為か、入り口の扉は大きく開いている。
「来たわね王国軍・・・今度こそ、今度こそ邪魔させないんだから!!」
そして上空では、エミリオ率いる空挺師団が飛び回っている。
ここで時間稼ぎをされる訳にはいかない・・・リコリスが叫んだ。
「ここは僕の隊が持ちます、急いでヨハイム様の捜索と敵の駆逐を!」
二振りの剣を構え、振り返らずエミリオを睨む。
多少ひるみはしたが、彼女はすぐさま部下へと号令を出した。
同時、王国軍は将達を先頭に教会へと入っていった。

「ま、また邪魔して・・・!許さないんだから、『紫月の狂魔』!!」
「久しぶりに聞いたな・・・けど、今はもう・・・『狂魔』じゃないッ!!」
対峙するリコリス隊とエミリオ隊。
自身達の有利を知ってか、エミリオ隊の威勢は良い。
だが、リコリスの側で武器を構えたウォーロックやヴァルキリー達から恐怖は感じられない。
皆、自分達の指揮を執る者を、自分達の仕える者を信じているから。
合図も無く、両軍はぶつかり始めた。
 空中から攻撃する為、降りてくるグリフライダー達を一騎一騎迎撃する。
しかし、彼女達はすぐに上空へ上がってしまう。
撃ち墜とす為魔術を撃つも、ウォーロック達の術では威力に欠ける。
それに気付いたリコリスが魔術の詠唱に入ろうとした、が。
「・・・上の人間自ら邪魔しに来るなッ!」
「それはこっちのセリフよ、邪魔しないでよ王国軍!」
エミリオ自らが、彼女に勝負をしかけてきたのだ。
まさか彼女自身が指揮を執らず、仕掛けてくるなんて・・・このままでは広範囲系の魔術が発動できない。
リコリスは、エミリオの迎撃をしながらもひたすら考える。
せめて後数人、教会内へ送り込めれば・・・!
互いに思う様事が運ばず、イラつき始めた時・・・風が吹く。

「グリフォンの扱いが・・・甘いよっ!!」

 少し甲高い声が聞こえ、皆が空へと視線を移す。
作ってしまった隙をつかれ、エミリオは大きく後退した。
「キリエ様・・・砲台の方は・・・?」
「大丈夫、何人かに任せてきた!助けに来たよ、守護者サマ・・・ううん、リコリス!」
リコリス自身が驚いた・・・キリエに助けられるとは思っていなかったから。
キリエはリコリスの苦戦を察知し、自分の仲間と王国空挺師団を率いて援軍に来たのだ。
けれど、キリエ自身はあまり王国の人間を好いていない・・・何故。
そう、リコリスが聞くよりも先にキリエは答えた。
 守護者は昔、ロスト・アリエスで流行り病に倒れた人々を助けた事があったのだと言う。
流行り病の噂を聞き、わざわざロンバルディアからロスト・アリエスまで。
だから助けに来た、キリエは再びそう言った。
だが自分は何もしていない、そう言いたげなリコリスを制止して彼女は続ける。
「それにさ、ウチが助けたい・・・アンタなら信じられるって思ったから助けに来たの!」
照れくさそうに、顔を赤らめそっぽを向きながら言った言葉は、妙に説得力があった。
リコリスは嬉しそうに大きく頷くと、すぐに隊へ指示を出した。
「僕とヴァルキリー数名で教会の調査に加わる、残りの者はキリエの援護を・・・任せた!」
そして、彼女は部下と共に教会内へと入っていった。


「・・・で、何で早々に独りになるかなぁ」
教会内に入ったリコリスだが、あまりの敵の多さに気を取られ、うっかり部下とはぐれてしまった。
迫り来る敵の数は減らず、いちいち相手をしていてはキリが無い。
片っ端からメデューサアイで石化させると、彼女は教皇の捜索を急いだ。
 捜索中、リコリスの中で『何か』が叫んでいる気がした。
そっちじゃない・・・そう叫ばれた気がして、声に従い教会内を走る。
大聖堂廊下へ続くドアの向こうで派手な音が聞こえ、ドアを開けた。
「リコ!・・・外の状況は!?」
ここに来て、ようやくリコリスはゴードン達と合流することが出来た。
ロザリィに外の様子を・・・キリエの援護を伝える。
そして、大聖堂へ続く扉を見たとき・・・驚いた。
扉は大きな、複数の魔導陣で封印されていた。
これだけ大掛かりな封印術式を使うならば、この先に教皇が居るのは間違い無い。
「けどこの封印、アタシにもロズウェルにも解除出来なかったのよね・・・」
さらに壊そうにも、異常なまでに硬い・・・最早為す術も尽き始めた。
 一見、なんの変哲も無い普通の魔導陣。
だが・・・何かが違う、発動に使用する魔力の系統、術式の細かい部分、これがここに備え付けられた自動式であること。
「この封印は、元からこの教会に?」
ラッセルがゴードンに尋ねる。
この封印は元々緊急用としてこの教会に備え付けられたものであり、それを知っているのも一部の人間のみ。
なんとなく犯人の察しはついてきたが・・・発動させた本人が解除できるとは限らない。
「この魔術は相当古いものだと聞いています、解除出来る人間は居なくなってしまった・・・とも・・・」
ゴードンが悔しそうにそう言った瞬間、リコリスはようやく・・・気付いた。

呼んでたのは・・・君?

 縛られた古い魔術、ずうっとそこに居たから・・・。
「意思を持ってしまった、有り得ないけど現実、寂し・・・かった?」
無意識の内に魔導陣に触れる、身体へ魔力として解除に必要な情報が流れてきた。
自分なら、守護者である自分なら解除出来るかもしれない・・・いや、してみせる!
 同時、魔術の限界時間に到達して、石化が解け始める。
聞こえてくる帝国軍の声、リコリスは振り向いて叫ぶ・・・より前に。

「・・・何分だ?ここは我々が防ぐ」

全て予測していたかのように、ロズウェルは彼女に問う。
「2分・・・それで解除してみせる!」
そしてリコリスは再び魔導陣に触れ、大きく息を吸う。
守護者の謳は、術式さえ理解出来れば全てを無効としてしまうから。
後ろで剣戟、魔術の発動音、音が混ざって・・・消えていく。
彼女はゆっくりと瞳を閉じて、魔力を込め謳い出した。
黒と紫の魔力が混ざった、幻想的で・・・どこかへ誘うような不思議な蒼き謳。