封印は・・・?
響く旋律は味方の士気を上げ、同時に敵の戦意を削いでいく。
交戦中のメリアント達は、その大部分がアサシンやネクロマンサーで構成されている。
彼らが使う魔術の殆どは黒系統。
黒と紫を乗せた、リコリスの謳はそれらすらをも分解していった。
紡いだ旋律は、外に居るキリエ達の元にも届いた。
少し音が消えかけているが、そこに乗せられた魔力はエミリオの術を掻き消した。
「ま、またアイツなの!?悔しい〜っ!!」
魔術が使えない、それを不利と見た彼女は部下へ撤退命令を下した。
「どうやら、防衛は成功・・・ってところかな」
ラッセルの言葉に、ようやく4人は安堵した。
後はリコリスの謳が終われば、ユグドラ達の元へ合流できる。
そう思った時、彼女に異変が起きた。
ずっと安定していたメロディが、突然転調や変速を繰り返し始めたのだ。
「ちょ、これ・・・マズイんじゃないの?」
封印は解除に向けて動いているのだが、何かがまずい気がする・・・勘なのだが。
見ている誰もがそう思った。
誰・・・、僕の邪魔をしてるのは誰ッ!?
乱されているのは陣が持った魔力・・・違う・・・誰、誰!!
僕に介入してるのは誰!!!!
―へぇ、これはアリステラに感謝しなければなりませんね
突然、魔導陣はガラスの様に砕け散った。
封印は解除されたが、正常に解除出来なかった為に罠が発動してしまった。
その場に膝を付くリコリス、駆け寄ろうとする仲間を制止すると。
「扉から・・・離れてもらえますか、外の人も中の人も」
そして鍵のかかった扉へ一気に駆け寄る。
「ちぇいやぁぁああああ!!」
彼女は速度を落とすことなく、扉の鍵を飛んで蹴り壊した(着地できずに顔から床へ突っ込んでしまったが)。
扉の向こうでは、身分の高そうな老人が、落ち着いた様子で微笑んでいた。
「猊下!お探し申し上げました!」
老人の姿を確認すると、ゴードンは真っ先に駆け寄る。
「では、貴方が・・・」
ラッセルの問いを全て聞き終える前に、彼は答えた。
自分が余が第47代メリア教皇、ヨハイム=レア=ブラウセントだと。
その横で、罠のことをようやく思い出したリコリスがもう一度膝を付いた。
体がうまく動かない、力も入らない・・・麻痺とは違う、呼吸が出来ないほどに苦しい・・・。
「こんのおバカ!また1人で頑張っちゃって・・・毒にやられてるじゃないの!」
ロザリィの言葉でようやく解った、あの魔導陣に込められていたのは・・・非業の死を遂げた探求者の言の葉。
上手く解放出来なくてごめんなさい・・・。
「全ての穢れを落とす蜃気楼の泉・・・その滴を以って我らを清めん」
さてどうしようか、とか考えている途中、急に体が軽くなった。
その上で、思いっきり頭を殴られたのだが。
「全く・・・私がいなかったらどうするつもりだったのだ?」
冷気系回復魔術・リフレッシュメント、傷を癒すサンクチュアリと違い、対象の状態を正常化させる魔術。
「珍しいわね・・・アイツがあんなに怒るなんて」
リフレッシュメントを発動させたロズウェルは、表情こそ変えぬものの確かに怒っていた。
それを珍しそうに、だが面白そうに見ているロザリィ。
彼女もまた、心配したんだからとリコリスの頬を引っ張る。
もう1人で無茶するな、と。
リコリスも、今回の事は流石に予想外で『無茶をした』という実感はあった。
反省こそしているものの・・・心配されていることが少し嬉しかった。
一段落ついたと見て、ラッセルはヨハイムへと事情を話した。
白鳳の紋章を見たときから、彼らがファンタジニアの者だとは気付いていたらしい。
そして姫自身が来ていると知ると、その目的が戴冠の儀なんだということも察しがついたと言う。
だが、戴冠の儀の支度をしようにも、必要なものは全て聖メリアータ教会領にある。
さらに聖メリアータ教会領は現在、ユベロン派に制圧されている。
まずはそこと交戦しているであろう、ユグドラの本隊と合流する事になった。
帝国が撤退し、キリエの援護もあり、教会からの道のりは実に簡単な物だった。
お陰で特に苦労する事もなく(砂地の足場の悪さは別として)ユグドラ達と合流することができた。
「リコリス!戦況は、ヨハイム猊下は・・・ってどうした、頬が赤いが・・・?」
彼女を見て驚くデュランへ何でもないと言い、軽く報告をした。
ちょうどその時、合流した両薔薇家総帥が彼の目に入る。
不機嫌そうな2人を見て、何となく察しがついたので。
「・・・いたっ!デュラン様まで何するんですか、せめて叩くなら宣言するかガントレット外してください!」
つい、リコリスをついでに叩いていた・・・彼女も何故叩かれたかは解った気はしていたが。
デュランから得た情報では、こちら側の戦況は拮抗していてあまり思わしくないという。
そこへユグドラや、ミラノを始めとした将たちが前線から戻ってきた。
「ユベロン派は強行的な集団・・・我々も手を焼いているのです」
神に選ばれた自分たちが救われるべきだと思い込み、他の宗派を弾圧する事も厭わない。
ユベロン派の戦士達はメリアントと呼ばれ、騎士団に近い存在ですがやり方は非常に攻撃的とゴードンが話す。
確かに、中々退こうとしない彼らの戦い方は厄介だとエレナが零した。
ミラノもまた、宗教戦争などとくだらないと言った。
「本来、宗教は等しく人を救うものなのに・・・」
ユグドラの言葉が、わずかに生き残ったテンプルナイツ達の胸に刺さる。
そんな中、クルスが伝令と共に彼女達の元へ戻ってきた。
十字聖団と名乗る軍勢が、ロンバルドを包囲しているのだという。
「ヤツら、教皇を渡せって要求してうるさくてね、手っ取り早く倒してしまいたいんだが」
そのような無茶苦茶な要求が呑める訳が無い。
彼の言葉に誰もが頷き、また前線へと駆け出した。